《縫製トップに聞く⑧》丸和繊維工業 深澤隆夫社長 東京に生産機能、人材の拠点へ

2022/07/29 06:25 更新


深澤隆夫社長

 カットソーアイテム主力の丸和繊維工業(東京)は、10年以上前に「量から質へ」転換し、国内の自社工場を軸にした付加価値の向上に力を入れている。主力の青森工場とは別の位置付けで、東京本社のサンプル生産スペースに設備投資を拡充し、ラボ的な存在に変えていく。

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■売り切るのが前提

 今回のインフレは一過性のものとは思えない。急激な原料高や円安など厳しい経営環境は異次元のステージに突入した。この30年ほど経営者はインフレに免疫がなかった。物価高対策もしつつ、人件費など従業員の待遇改善もしながら、将来のための設備投資もしなければならない。従来型の大量生産・大量販売によって売り減らし、値引きしても残った商品は廃棄するようなビジネスモデルは通用しなくなる。これからは作ったモノは売り切るのが大前提になるだろう。SDGs(持続可能な開発目標)を主眼に長期的な視点で考える必要がある。

 縫製工場では人材の確保・育成が大きな課題だ。今年4月に人作りの拠点として価値創造研究所(価創研)を新設した。例えば、循環型社会に対応した新しい価値を生み出す場にしたい。自社の商品サイクルを長くするための技術開発もある。従業員だけでなく、取り組み先や消費者も含め、みんなが笑顔になるためにはインキュベーションの場が大事だ。若く才能のあるデザイナーが世界へ羽ばたくため、一緒に成長を支えられるようにしたい。服作りの〝駆け込み寺〟的な役割を担いたい。昔は東京で生産もしていたが一時、縮小していた。生産機能を拡充するため、再度設備投資する。

■個への対応が大切

 昔は大手企業と太くがっちりだったが、数年前から取り組み先は細分化してきた。究極的には個への対応が大切になってくる。例えば、車椅子を利用する人がはきやすいパンツ「フライングジーンズ」プロジェクトをはじめ、コロナ下のテレワーク用パンツや在宅勤務から睡眠だけでなく外出着にも活用できる動体裁断に基づいたリラックスウェアも開発した。こうした商品開発の背景には「動体裁断」「動体縫製」という自社の強みを生かしたニットシャツ「インダスタイル・トウキョウ」の成功がある。自社ブランドで消費者の声をダイレクトに商品開発に反映してきたことが、個の時代のニッチで専門的な用途の洋服による悩み解決につながる。

 将来に向けてデジタル化も欠かせない。昨年、3D・CGのソフトを導入した。パタンナーがプレゼンテーションで活用するなど若い社員ほど抵抗なく使いこなしている。東京本社には最新鋭のミシンも揃える予定。今後いつでもビジネスモデルが刷新できるように設備を整えるのが経営者の役割。それを活用し、若い世代が新しい発想、自分たちの肌感覚で次の時代をどう作り上げるのかが楽しみだ。

(繊研新聞本紙22年7月8日/大竹清臣)

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