高級婦人服やコレクションブランドを取引先に持つタカラ(岡山市)。縫製業としての持続可能な未来を作るため、既存の関係を大事にしながら、新規開拓・新規事業にも動いている。社員の成長を含めた一連の取り組みを、SDGs(持続可能な開発目標)になぞらえ、「STGs」(サステイナブル・タカラ・ゴールズ)と名付けた。
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■得意先と絆深める
コロナ禍で改めて一本足の怖さをまざまざと考えさせられた。受注は21年秋冬から復調してきたが、その前は御多分に漏れず、初めて防護服やマスクの縫製に取り組み、なんとか社員に賞与を出せた。経験値をもとに生産性を上げやすい形を考えて取り組み、すぐに生産性を高められたのが大きかった。
STGsは、SDGsへの意識が高まるなか、自分なりに考えていた問題解決の方向性を示す、分かりやすい言葉として使っている。何よりも大事にしたいのは、タカラの技術を真に評価してくれる長年の得意先・ブランドとの絆をより大切にしていくこと。一番苦しかった時期にも、継続的に安定的に発注していただいた得意先には感謝しており、その気持ちを忘れることなく、さらに良い関係を目指していきたい。
加えて、全体として受注量が大幅に減少した時期に、声掛けしてつながったコレクションブランドなどの新たな得意先とのパートナーシップ作りも進めている。長年、エレガントな路線で鍛えられてきた。それをベースにアバンギャルドにも臨んでいることで、顔の雰囲気が違うのだろう。「技術的に素晴らしい」「しびれる顔」などと高い評価を得ている。こうした新規得意先の服作りに早く慣れていくことも挑戦と捉えている。
■持続可能な未来を
社員が長く安心して働ける生活環境も整備する。小豆島の工場はほぼ全寮制だが、一人暮らしも選択できるようにする。小豆島は移住者が増え、きれいなマンションやハイツも出来るなど環境が変わり、若い人の生活環境に対する考え方は多様化している。仕事は好きでも寮生活が合わない事例が毎年のようにあり、持続してもらうことが大事だからSTGsとして実行する。明確なものではなかった人事評価制度の見直しも形にする。
近く受注生産のオリジナルブランドを立ち上げる。クラウドファンディングやインフルエンサーの活用ではなく、じっくり煮詰めた形で進める。高級素材や天然素材を使い、高品質で大切に着てもらえるもので、考え方はSDGs。アパレル会社になるわけではない。技術を維持するためにも、縫製ラインを止めてはいけない。オリジナルを手掛け始めた縫製工場の皆さん、そう思ったのではないか。繰り返しになるが、技術を真に評価していただいているブランドとの絆が一番大事。ただ、いざという時を考えると新規事業が必要だ。
(繊研新聞本紙22年7月8日/吉田勧=おわり)
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