《縫製トップに聞く②》辻洋装店 辻吉樹社長 〝服飾素人〟の感性を生かす技術

2022/07/19 06:24 更新


辻吉樹社長

 辻洋装店は東京都中野区に本社とアトリエ(縫製工場)を構え、婦人プレタポルテ向けの物作りに定評がある。今年で創業75年を迎える都市型ファクトリーだ。長年培った匠の技術とともに、都内にある強みを生かして新興DtoC(メーカー直販)ブランドへの供給を広げるなど、新しい領域に挑戦している。

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■新興DtoCと共に

 製造コストが高い都内で縫製業を営むにはビジネスモデルを変換しないと継続は難しい。コロナ禍によって、未来が早く来た感覚だ。しかし、多くの縫製業者は長年の賃加工の下請け仕事に慣れてしまい、新しいビジネスなどで独自に羽ばたけないところが多いのではないか。

 当社はコロナ下で徐々に意識改革を行い、新興DtoCブランドへの供給を広げている。その典型事例が、〝イメージコンサルタント〟の望月順子氏がデザインする「マグノリアコレクション」で、生産を担って新しい市場を開拓している。望月氏は大手証券会社と外資系銀行で資産運用コンサルタントとして11年間勤務した後、10年にイメージコンサルタントとして独立した方だ。主に富裕層の女性を対象に銀座かいわいで、ラグジュアリーブランドの購買を顧客に同伴してアドバイスしている。彼女のセンスを支持するファンは多く、茶道の師匠やカラーコーディネーターなど人前に出て指導する〝先生〟と呼ばれる層が中心だ。年齢層も30~80代と幅広い。ファンの周辺には生徒にあたる幅広い層が形成され、口コミやブログなどのSNSを通じてマグノリアの支持層が拡大している。これは不特定多数を対象にしたインフルエンサー的なものではなく、もっと関係性の深いファン層だ。新興のDtoCブランドからの生産要請が今、当社に相次いでいる。これを契機にビジネスモデルの転換に生かしたい。

■「CLO」を導入

 審美眼に優れた〝服飾技術の素人〟の感性を、具体的なパターンに落とし込んで製品化するのが国産プレタのノウハウを持つモデリストの役割だ。

 物作りの過程では、生産現場の職人と服飾の専門知識のない先方とのやり取りで、当初は言語が通じないほどの距離感があった。ディテールについて「ゆるみを付けて」「膨らみが欲しい」「ナチュラルなフレア」などと感覚で表現され、何度もダメ出しされ、サンプル作成も何度も重ねた。しかし、出来上がった製品は顧客の心を捉え、受注生産で着実な販売につながる。製造原価率も通常の約2倍で顧客の満足度も高い。

 6月に3Dモデリングソフトウェア「CLO」を導入した。サンプル製品は、アバターを使った3D・CGを通じてデザインすることでコストと時間を削減し、より多くのDtoCブランドへの対応が広げられる。これは新しいビジネスチャンスに向けた挑戦になる。

(繊研新聞本紙22年6月28日/北川民夫)

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