コロナ禍当初、「医療用ガウンの生産がなかったら国内縫製工場の半分は廃業していたかもしれない」。その窓口として「アパ工連(日本アパレルソーイング工業組合連合会)が大きな役割を担えた」と話すのは、アパ工連副会長でもあるファッションしらいしの白石正裕社長だ。
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■魅力とやりがいを
当社は①国内のOEM(相手先ブランドによる生産)②米国の高級ブランド③自社企画の3本柱で成り立っている。取り組み先でいち早く回復したのは米国の高級ブランドで、今年1月にはスタッフ4人をニューヨークへ派遣した。まだまだ感染が心配される時期で、私は「怖ければやめてもいい」と話したが、スタッフが「行きたい」と志願した。それだけ魅力とやりがいのある仕事。現地のアトリエでは、渡米したパタンナーと技術者が米国のクリエイターのチームと一緒にデザイナーの頭の中のイメージを具現化し、立体的な服に落とし込む。
こうした貴重な体験は個々人はもちろん、工場全体のノウハウとして積み上げられていく。従業員のモチベーションを向上させるため、ニューヨーク、秋田県大館市(自社工場)、東京本社工場とのローテーションを実施している。特に若い世代のやりがい、服作りの魅力を創出する狙いがある。創業当時から未経験の新人を育ててきたが、個々の能力を大切に、活躍できる場の提供に力を入れている。現在改装中の東京本社工場内に技術者と外部のクリエイターが一緒に試作品を開発できるようなスペースを新設する予定だ。
■自社企画を売る
本社工場の改装の一番の目的は自社企画〝お受験服〟のショップの併設。コロナ前からECで販売していたにもかかわらず、工場まで買いに来てくれる人が絶えなかったことがきっかけだ。
その時には必ず「作る場を見てみたい」と言われるので、工場見学も始める予定。作り手の顔が見え、思いが伝わる商品が消費者との信頼関係につながるのだろう。売り場ではお受験服を販売するほか、新たにブラックフォーマルの企画も進行中だ。お受験のためのメイク講座やモデルによる着回しイベントなどができるスペースも設ける。
コロナ下でファクトリーブランドが急増しているが、単に日本製だから売れるということはない。06年から開始したお受験服でも売る難しさを実感してきた。自社企画が支持されているのは、コスト至上主義の生産とは一線を画し、着心地追求のために長年培ってきた技術を惜しみなく注ぎ込んだ服作りの良さが伝わっているからだ。
国内の縫製業も捨てたものではない。今回の改装で都市型工場のあるべき姿を追求するだけでなく、秋田の自社工場でも地域資源を生かした取り組みを構想している。現状に満足せず、新たなチャレンジを続ける。
(繊研新聞本紙22年7月7日/大竹清臣)
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