アーバン(大阪市)は高級婦人服の縫製工場。22年6月、大阪文化服装学院と協働したファクトリーブランド「UO」(ユーオー)でオンラインの予約販売を実施した。「しかるべき縫製工賃で、原価率は50%以上」(井上美明社長)という付加価値の高い服作りを提案する。「小売価格ありきで、製造コストを当てはめる物作りをしてしまっている」業界に対し、真逆をいく物作りを打ち出した。これから企画力の強化も目指す。
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■もっと交渉すべき
コロナ禍に突入した20年は受注が厳しかった。22年になってからは、だいぶ婦人服の受注が戻っている。縫製加工賃についても適正な価格を要求しやすくなった。ただし、もっと交渉をすべきだと思っている。
アパレルメーカーは、生地や副資材と違って、縫製加工賃については見積もりを出さないところが多い。製造コストの見積もりを経て、小売価格を設定するのではなく、これとは逆の服作りをずっとしている。
業界は、まず小売価格を決めてから原価率20%ぐらいで製品化しているが、これでシーズン中に高い消化率を期待できるのだろうか。売れ残ることを前提に物作りをしてしまっているようにも見えてしまう。工場側もかつては利益を生み出しやすかったが、今ではハイリスクノーリターンになってしまった。
この業界が間違った方向性で物作りしているのを正したい、という考えからファクトリーブランドを立ち上げた。デザインをはじめとした企画については、大阪文化服装学院の学生をデザインチームに迎え入れた。
■企画提案力を磨く
6月からオンライン受注を開始したユーオーは、30代の女性をメインターゲットに、学生のクリエイティブで新鮮なデザインと、当社の物作りとを組み合わせた。ファクトリーブランドの強みを生かそうと、全商品を予約販売にした。
消費者に対する認知度のなさ、発信面で課題は残したが、取り組みは22~23年秋冬物でも継続する。今度はシーズン立ち上がりに本格的に提案する。
実は、初回に提案した22型のうち1型は、当社の社員が企画したもの。秋冬物ではこうした提案も増やし、自社の企画提案力を磨くことも重視する。
工場の人員は、コロナ禍で外国人技能実習生が減った。一方で、新卒の採用は毎年続けている。ここは若い人材の採用・育成が進み、平均年齢が30歳以下。インターンシップも約2年前から実施している。
大手企業でデザイナーやパタンナーの募集が減っているせいか、レベルの高い人材が以前よりも増えている。デザイナーを担える人材も視野に入れた採用活動を進めていく。裁断したパーツにプリントをした服作りなど、異業種との交流も意識的に広げている。物作りの改革にも挑戦を続けたい。
(繊研新聞本紙22年6月30日/小畔能貴)
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