【記者の目】ファッションへの熱冷めぬローティーン市場 新たなヒントはデジタルと共感

2020/04/12 06:30 更新


 ローティーン(小学生5年生~中学生2年生)市場が明るい。この世代の女の子は、少し上のお姉さん世代や大人に憧れて背伸びしたい子が多く、トレンドに敏感だ。この一年ほど、スマートフォンの普及も後押しして、興味が服以外にも広がっている。ファッションとアパレル以外のコンテンツを掛け合わせることで、新たなビジネスのヒントが導き出せそうだ。

(東京編集部子供服担当 関麻生衣)

スマホ普及で変化

 市場をけん引するのは「ラブトキシック」(ナルミヤ・インターナショナル)、「ピンクラテ」(ピンクラテ)、「レピピアルマリオ」(アダストリア)の3大ブランドだ。程よく背伸びできるデザイン、肌の露出を抑えるなど母親目線の安心感、子供服ならではの仕様や品質が支持されている。

 一方、女の子たちに影響力を持つのは中学生向け雑誌『ニコラ』(新潮社)。ファッションアイコンは通称〝ニコモ〟と呼ばれる専属モデルたちで、彼女たちが着る服やスタイルがトレンドを作ってきた。3ブランドも同誌に掲載したり、キャンペーンモデルにニコモを起用したりして、一緒に市場を育ててきた。

 しかし、この1年ほど、その構図が変化している。一番の背景はスマホの普及だ。スマホの個人保有率は、総務省の「平成30年版情報通信白書」によると、13年からの5年間で6~12歳は約10%増の30.3%、13~19歳では約15%増の79.5%に推移している。

 スマホでも情報が得られるようになったとはいえ、インスタグラムなどSNSは親が管理している場合が多い。そのため、女の子たちはユーチューブやティックトックに夢中になっている。

 一例に、ピンクラテが2年ほど前に開設した公式ユーチューブチャンネル「ピンクラテTV」が、この1年ほどで急速に存在感を増している。人気の理由は動画に登場するモデルたちへの親近感だ。ブランドを強調した動画よりも、例えば、普段の学校生活で愛用している文具を紹介したものが好評という。ニコラも13年に公式のユーチューブチャンネルを開設。昨春から毎日配信し、今では購買のきっかけにもなっている。

雑誌に加え、ユーチューブが情報源になっている(「ピンクラテTV」)

響く〝パーソナル〟

 ユーチューブやSNSの利用が日常になり、憧れの存在が身近になった。その影響もあってか、この世代が関心を持ったり、共感したりする点がパーソナルな部分に寄っているのがまた興味深い。

 ニコラは20年3月号で、「橋本環奈ちゃんみたいなとぅるとぅる天使ヘアになりたい♡」をテーマにしたページを掲載。橋本さんはローティーンのアイコンの一人で、同誌が毎冬、読者の投票で行う「なんでもランキング」の女優部門で1位になった。だが、女の子たちは「環奈ちゃんみたいにではなく、環奈ちゃんみたいなさらさらヘアになりたいとピンポイントで憧れを抱いている」(小島知夏編集長)。この企画はそこに着眼した。

 20年2月号では、ニコモの林芽亜里さんの部屋を紹介したり、深尾あむさんに100の質問をしたりしたページを作った。デジタル上でニコモとつながれるようになり、読者により近くなったことで、おしゃれの手本としてだけではなく、モデルの日常を垣間見たい、頑張っているモデルを応援したいという声が増えている。

 これらの事例から、ユーチューブを中心としたデジタルコンテンツの活用が、今後、ローティーン市場でブランド力を高めるための鍵となることが見えてきた。加えて、そこに登場するモデルやインフルエンサーのリアルな一面が、10代の女の子たちの関心をひきつけるうえで欠かせない要素になる。

 実際に、アパレル以外のコンテンツを取り入れた例が、高校生や大学生向けのブランドを中心にじわじわ増えている。ローティーンの憧れのブランドの一つである「ウィゴー」は、若者が関心あるヒト・モノ・コトがブランドとの接点になると考え、この間、ユーチューブやティックトック、アニメなどとの取り組みを積極的にしている。

 ジュンは2月、「ジュンレッド」の20年春物の展示会を、一般消費者向けの先行受注会を兼ねて開いた。高校生や大学生のブランド認知を高めることを狙いとした。来場促進につなげるため、会場ではユーチューバーのまるりとりゅうがによるトークイベントも開催。彼らを一目見ようとファンが会場に押し寄せ、熱気に包まれた。

 昨秋の消費増税に暖冬、新型コロナウイルスの感染拡大と先行き不安なアパレル市況が続くが、10代のファッションを楽しみたい気持ちは冷めていない。

 むしろ、日常的に旬な情報が得られるようになって、新しいモノやコトへの感度が高まり、消費意欲も増しているのではないだろうか。はやり廃りのスピードは速いが、アパレル以外のコンテンツをうまく掛け合わせることで、ビジネスの可能性はさらに広がりそうだ。

関麻生衣・東京編集部子供服担当

(繊研新聞本紙20年3月2日付)

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