【アウトレット店店長に聞く】店をうまく運営するコツ

2020/01/12 06:29 更新


【店長に役立つページ】アウトレット店に勤める店長に聞く 店をうまく運営するためのコツ

 天候不順や先物買いの減少などによるプロパー販売の不振、ファッションの供給過剰による在庫過多などの影響で、近年アウトレット店の重要性が高まりつつある。来店客や商品、スタッフの数が多いアウトレット店では、仕事内容がプロパー店と大きく異なる。今回はアウトレット店に勤める3人の店長に、自店を円滑に運営するために心掛けていることを聞いた。

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「アズノゥアズ」南町田グランベリーパーク店 山本亜紀子さん

状況に応じて優先業務を判断

レディスの大人向けからヤング向け、犬用ウェアなど同社の全ブランドを扱う店で店長を務める山本さん

 山本さんは04年に入社。3年目に大きめサイズのレディスブランド「アズノゥアズ・オオラカ」で初めて店長に昇格し、主に百貨店内の店で働いてきた。直近までは本社でオオラカ事業部のマネージャーを務めていたが、南町田グランベリーパークへの出店に伴い、約10年ぶりに店長として働くことになった。

 アウトレット店に勤めるのは初めてだ。同店は既存のアウトレット店と異なり、同社の全ブランドの商品を揃えるなど新しい試みを始めるため、経験豊富な山本さんが抜擢(ばってき)された。勤めてきたプロパー店に比べ、来店客数やスタッフ数、納品数が格段に多く、「今まで勤めてきた店とは業務上の多くの面が異なる」。開店から約1カ月が経ち、力を入れる所と抜く所のメリハリなど「店をうまく運営するための要領を少しずつつかみ始めた」ところだ。

 プロパー店と異なる点の一つが来店客の数と層だ。目的買いが多く、じっくり接客することができた百貨店に比べ「ふらっと入店されるお客様の数が非常に多く、入店客数に対して、スタッフの数が足りていない。接客に付く、付かないの見極めが重要」という。

 スタッフ数は山本さんを含めて13人。約160平方メートルの売り場を6~9人で切り盛りする。プロパー店よりも多い人員で店を運営するための工夫もある。スタッフが少ないプロパー店では、全員が店のすべての業務を一定の水準以上でこなせるように指導・教育を心掛けていたが、人数が多いほか、働ける時間が限られているアルバイトが多い現在は、一人ひとりの個性や長所を伸ばす指導・教育に切り替えた。「開店1週間で全スタッフと一緒に働く時間を設け、適正を判断した」という。

 納品数が多いのも、アウトレット店ならではの大変な業務の一つ。「毎日3パッキン以上、多い時は13パッキンぐらい届くこともある」という。来店客が多いなかで、大量の納品をさばく際に意識しているのは、客が店頭の商品に満足しているか、納品時の売り上げが予算を超えているかの二つだ。

 「常に優先すべきは店頭。売り場に並ぶ商品の動きが悪ければ、新しい商品を出すべきだし、動きが良いなら急いで品出しする必要はない」。納品時の売り上げが予算を超えていないなら「品出しよりも接客や売り場の整頓を優先する」。月予算を日時単位に分解し、判断基準にしている。

 「アウトレット店ですべての業務を完璧にこなそうとすると大変。お客様に迷惑を掛けないことを前提に、自分や周囲の失敗に寛容になれた方が仕事をしやすくなる」と考えている。

「マーキーズ」南町田グランベリーパーク店 吉原旦人さん

納品作業の効率化進める

冬に動きが鈍くなるロングTシャツを半額でワゴン販売して売りにつなげるなど、値下げの時期や価格設定を決められるのはアウトレット店ならでは

 同社で初めてとなるアウトレット店の店長を務める。前例がないため会社と共に試行錯誤する日々だが「責任がある分、楽しい」と笑う。

 13年に入社し、15年に町田東急ツインズ店の店長となり、18年にはみなとみらい東急スクエア店の店長も兼任。ともに接客重視の店のため、アウトレット店の店長に就く前に、繁忙店のコピス吉祥寺店でも数カ月働いた。「接客を優先していると業務が追い付かず、商品配置で売りにつなげることを学んだ」という。とはいえ、アウトレット店は「思っていたより忙しい」。売り場面積211平方メートルの店舗にスタッフ5人体制のため、「納品作業に追われ、セルフでの販売が8割」の状態だ。スタッフがあと2人増える予定のため、今後は「仕事を役割分担して、接客に専念できる時間も作りたい」という。

 スタッフによって納品作業にかかる時間が異なるため、より短時間で出来る方法を示すことで効率化につなげている。プロパー店は商品が少しずつ入荷するため、1点ずつ納品作業をしていたが、アウトレット店は一度に15パッキン前後、約400~500点が入ってくるため「細かく作業していると丸一日かかってしまう」。先に総数を手で数えてから納品作業をすることを優先している。バックヤードでは、商品の入荷が想像以上に多かったため、事前準備していたスチール棚では間に合わず、自作の段ボールの棚が壁一面に積まれている状態だ。「これからアウトレット店に就く店長さんには、金額別、アイテム別、ブランド別など、在庫を品出ししやすいカテゴリーに分けて管理できるよう、事前イメージを持っておくことをお勧めします」と苦笑いする。

 売り場では、お客が買い物しやすいよう、サイズ別に商品を陳列することも考えたが、まとまって見えるようにデザイン別を選んだ。安売り店に見えないよう、下げ札は隠し、店頭のポップも「スペシャルプライス」や「プライスダウン」などの表記にとどめて低価格を押し出してはいない。大変な業務は「値段設定」を挙げる。動きが鈍い商品、在庫を抱えている商品の値下げのタイミング、価格設定は吉原さんの判断にゆだねられている。毎日販売データを確認し、逐一スタッフにお客が手に取った商品や要望は何かを尋ね、その感覚を磨いている。「会社の利益に関わることなので、責任は重大だけれど、やりがいがある」とかみしめている。

「エテ」三井アウトレットパーク滋賀竜王店 寳里(ほうり)みちこさん

ファン生む最前線で丁寧な接客

「ブランドイメージのアップにはスタッフが楽しく働いていることも大切」と寳里さん

 寳里さんは11年にミルクに入社、13年に三井アウトレットパーク滋賀竜王への出店とともに店長として赴任した。それまで店長の経験がなく「スタッフがいかに気持ち良く働けるかばかりを考えていた」。エテはほとんど値引きをしないため、値引き価格管理もアウトレットにしかない。変動する価格を決めるのも寳里さんの仕事で、決めた価格は全国のアウトレット店に適用される。

 シーズン品を並べるプロパー店と違い、商品量は約10倍と格段に多い。そのため商品管理の時間も掛かりスタッフ数も多い。プロパー店のコレクション別陳列と違い、アイテム別に整理して見せている。「アウトレットモールは広く、お客様は買い回りの移動に時間を要します。店内の滞留時間が短くなりがちなので、目的の商品が見つけやすいようにしています」。

 百貨店やファッションビルにある店は、仕切りだけの売り場が多いが、アウトレット店は扉の入り口があるクローズな空間だ。「移動しなくても、店内客のない時にはスタッフと自由に会話ができる。楽しく働いてもらうための十分なコミュニケーションが取れるのは、アウトレット店ならでは」と環境面のメリットもある。一方、ガラスの壁面は絶えず外から見られるため、ロールプレイングができない。新人は自分や中堅店員の横につけて、その接客を文字通り〝見て〟覚えてもらう教育スタイルとなる。

 スタッフには「自分が扱うブランドが好きであることが絶対条件だと思います。アウトレットだからこそ、お客様に良いイメージを与えられることが大事だからです」。またプロパー店より格下だと思うことがないよう、モチベーションを高めることを心掛ける。「エテ」ブランドを背負っていることを意識させ、百貨店同様の丁寧な言葉づかいや所作を徹底する。

 ブランドの敷居の高さを感じる消費者にとって、アウトレットはエントリーになることが多い。プロパー店やオンラインショップにも来店するリピーター作りとして「エテメンバース」への入会も積極的に呼びかける。

 「商品数も多く、型落ちといえど新品で品質は劣らない。お客様にとって宝物が見つけやすいアウトレットだからこそ、プロパー店以上に親しみやすく丁寧な接客が大切だと思います」とアウトレット販売の役割を重視した運営を心がける。

《バックルーム》

 「都心のファッションビルと郊外のアウトレットに好調店が二極化している」とは、あるレディスブランドの話だ。商業施設の開業数は鈍化しつつあるが、依然として増え続けている。ファッション感度や価格帯、立地において中途半端な立ち位置の館や店は厳しいのだろう。

 こうした状況のなか、「今後アウトレット店の重要性がさらに高まっていくのでは」と思い、今回取材を申し込んだ。アウトレット店の店長は、日々目まぐるしく変化する店舗状況に応じて、迅速かつ的確に判断を下していく必要があることが分かった。業務の優先順位を決め、やること、やらないことの判断が求められる。

(繊研新聞本紙19年12月23日付)



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