経済産業省は企業の人権対策を示した「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」案をまとめ、8月5日に政府が開いた「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」で報告した。今後、一般からの意見を募集し、その内容を反映させた後、9月中をめどに政府のガイドラインとして策定し、全企業に活用を促す。
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案は今年3月に経産省が新設したガイドライン策定のための有識者会議での議論を経て作った。会議には日本繊維産業連盟(繊産連)の富吉賢一副会長も委員として参加した。
国連のビジネスと人権に関する指導原則やOECD(経済協力開発機構)の多国籍企業行動指針、ILO(国際労働機関)の多国籍企業宣言など「国際スタンダードを踏まえ、日本企業の実態に即して作成」(豊田原大臣官房ビジネス・人権政策調整室長)した。
日本で事業活動を行う全ての事業者が対象で、サプライチェーンの取引先の範囲も「無制限」とした。ガイドラインで求める「最初のステップ」として、企業に対して、経営陣がコミットメントした人権方針の策定と公表を促した。
その上で、サプライチェーン上で生じていたり、生じる可能性がある人権侵害の内容と人権への「負の影響」を特定し、防止・低減策を行い、検証した上で、その内容を情報開示する人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の手法と事例を示し、「定期的に繰り返す」ことを求めた。人権DDで人権への負の影響を評価するにあたり、技能実習生を含む外国人などの「脆弱(ぜいじゃく)な立場にあるステークホルダーに特別な注意を払うことが望ましい」とした。
さらに、取引先で人権侵害があった場合の対応として、「取引停止は、人権への負の影響がさらに深刻になる可能性があることから、最後の手段とすべき。まずは関係を維持しながら、負の影響を防止・軽減するよう努めるべき」とした。
紛争が生じる可能性がある国・地域の企業と取引したり、事業活動を行う際は「事前に撤退計画を検討することが大切」と提起した。企業が人権への負の影響を引き起こしたり、助長していることを認識した場合、「救済を実施、または救済の実施に協力すべき」とし、その方法や苦情処理のメカニズムなども示した。
中国新疆ウイグル自治区での強制労働問題などを契機に、企業に人権尊重を求める動きが国際的に加速しているのがガイドライン策定の背景。経産省と外務省が共同で昨秋に実施した企業への人権対策に関するアンケート調査で、「ガイドラインの整備を求める声が多かった」(豊田室長)ことに対応した。
法的拘束力はないが、「対策にしっかり取り組むことがビジネス上のメリットになることをメッセージとして発信し、企業に浸透させていきたい」(柏原恭子大臣官房ビジネス・人権政策統括調整官兼通商政策局通商機構部長)という。
繊産連がILOと共同で策定し、7月28日に公表した「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」とは「国際スタンダードに沿っているという点で整合性がある」(豊田室長)とし、繊維関連企業に対して「両方のガイドラインを活用してほしい」としている。