【記者の目】地方百貨店・支店の店舗活性化策

2018/09/10 06:29 更新


 高額品消費やインバウンド(訪日外国人)需要の押し上げにより、大都市部の百貨店売上高は増収基調だが、これらの〝恩恵〟が少ない地方百貨店や郊外都市の支店店舗は減収が続いている。百貨店業界全体としてみれば、この構図は変わっていない。ただ、「17年度店舗別売上高ランキング」(本社調査)では191店中76店が増収で、地方百貨店や大手百貨店の支店でも増収に転じている。次世代顧客層を獲得するための改装、客層の幅を広げるための環境整備、若い社員中心の店舗活性化プロジェクトの実施など、多面的な〝投資〟が成果に結びつき始めている。

(吉田勧=西日本流通担当)

増収店、13年度に匹敵

 日本百貨店協会の「最近の百貨店売上高の推移」をみると、10大都市の合計である「都市計」売上高はインバウンド売上高が低調だった16年度以外は増収なのに対して、10大都市を除く「地区計」は減収が続いている=表。しかし、単店舗の売上高をみていくと様相は少し変わる。17年度店舗別売上高ランキングでは、10大都市以外でも、そごう千葉店、鶴屋(熊本)、天満屋岡山本店、遠鉄百貨店(静岡)、いよてつ高島屋(松山)、近鉄百貨店奈良店などが増収となった。

 店舗別売上高ランキングの増収店舗数は、13年度が91店、14年度34店、15年度56店で、16年度は19店。17年度は消費税増税前の駆け込み需要などがあった13年度に匹敵する店舗数となったことに注目したい。


最近の百貨店売上高の推移

改装×買い回り促進

 地方百貨店の置かれている環境が改善したわけではない。インバウンド需要の広がりはあるものの、地方百貨店の全館売上高に占める免税売上高構成比は「1%未満」が大半だ。競合店の閉鎖がプラス要因の百貨店もあるが、増収店舗の多くは主体的な取り組みによるものだ。

 好例と言えるのが伊予鉄高島屋(松山)で、17年度は売上高が前期比1%増、入店客数0.4%増となった。増収は12期ぶりだ。15年秋の「東急ハンズ」の導入、16年春夏には化粧品売り場を約1.5倍に拡大するなど次世代顧客の獲得を狙いとする改装を継続してきた。加えて、部門間の買い回り施策も重視しており、「新規客獲得と固定客化の両軸」の施策が入店客数と売上高の増加に結びついている。

 米子しんまち天満屋は17年度で4期連続増収を達成した。まずは入店客数や来店頻度の向上をと、13年12月に食品スーパーの「マルイ」を導入した。「デイリーな集客装置」を強化する一方で、「スナイデル」「スワロフスキー」といった地域初を導入するなど百貨店部分の高感度化も進めている。地域に求められているモノ・コトを探り、専門店ゾーンを含めたSC全体の魅力度向上に取り組んでいる。このほか、化粧品の強化で次世代顧客層の利用が増えている百貨店は多く、買い回りを高める施策が重要になっている。

地域との協業・共生

 百貨店という器や場を改めて活用する動きも広がってきた。代表例が屋上。福屋(広島)は、16年夏に屋上を整備し、9階にパブリックガーデン、10階に年中営業のガーデンレストランを開設した。以降、地元学生による「あおぞら文化祭」や演奏会のほか、絵本の読み聞かせ会など多彩に実施しており、客層の幅を広げている。17年7月に無料遊び場「たまルンランド」を設けた岡山高島屋でも、夏のビアガーデンで家族連れが増えている。16年12月、鳥取大丸の屋上に誕生した芝生広場の「まるにわガーデン」は、地元の非営利団体がクラウドファンディングで資金を調達し、屋上を整備した。地域活性化の観点から、地元の〝外部資本〟で屋上整備が進んだことは興味深い。

 地域との連携は他百貨店でも深まってきている。産直編集ショップを店内に配する百貨店が増えた。地元の専門店を導入する事例も広がっている。都心で支持されているブランドの導入も求められているが、一方で地元で話題のモノやコト、地元の「知る人ぞ知る」存在のモノやコトを紹介するのも地方百貨店の「使命」との認識だ。

 もう一つ、人への〝投資〟も欠かせない。長年の経費削減から社内組織が硬直化している百貨店は少なくないだろう。若手社員の働きがい、活躍の場を作ることを目的に、プロジェクトチームを立ち上げる百貨店が増えてきた。現状の課題を克服し、これからの百貨店のあり方を考えた〝小さな企画〟が店内や社内ににぎわいや潤いを与えはじめている。マネジメント(管理・経営)するのではなく、企画を作り実践するプレーヤーを生み出していくことが店舗活性化の鍵ではないか。

福屋八丁堀本店が5月に実施した屋上挙式

(繊研新聞本紙8月6日付けから)

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