ファッション産業は成熟を極め、従来のように仕事をしていては、新しいものを生み出すことが難しくなっている。関わりのなかった異分野・異業種と出合い、互いの良さを引き出すことが求められる時代に入った。
7月に開催された合同展「ワーク&フォス」は、まさにそうした考えから生まれたものだ。出展者として医療関係者も巻き込み、ファッションが社会に提供できる新しい価値を探っている。
(五十君花実)
■売買だけでなく
同展を企画したのは、レディスブランド「タイニーダイナソー」を手掛けるリタルダンド(東京)の工藤洋志社長ら。工藤社長はケアマネジャーの資格も持ち、ファッション業界と介護・医療業界の双方が置かれた状況や課題を以前から感じていた。例えば、介護や医療の世界では、今のシニア世代は感覚が若いのにもかかわらず、その感性に合ったサービスを提供する施設や病院が少ないという。ファッションが持つデザインの力を組み合わせれば、新しい切り口が提供できると考えた。
ワーク&フォスに実際に出展していたのは、思い出の服を日傘やペット用品にリメイクする「ループケア」(リシュラ、広島市)や、革小物ブランド、アクセサリーブランド、漆器ブランドなど。医療分野からは、福島・いわきの常磐病院、人工歯のアクセサリーを提案する歯科医師らが出展した。「出展者とバイヤーとの、売る・買う、という関係性だけでは終わらない場にしたかった。一見、何の集まりか分からないが、能動的に皆が関わり合うきっかけを作りたかった」と工藤社長は話す。
■人材獲得も狙う
常磐病院は、「タイニーダイナソー」が看護師の制服をデザインした縁から出展し、来場者や出展者に病院をアピールした。モダンなデザイナーズ制服の採用には、看護師不足の中で、人材獲得の狙いがあるという。「医療業界も、各病院が生き残りをかけて様々な取り組みを行っている。良い医療を追求するのは大前提で、それ以外の部分でどう病院の個性を出すかが求められている」と同病院の関係者。「今後は入院着などでもおしゃれなデザインを採用していけたら」という。
ワーク&フォスは初開催で、今後どんな反応が生まれるかはまだ未知数だ。将来的には、同展を機に知り合ったブランドと病院とが組んで商品を作り、病院内の期間限定店で販売するなどの未来図を描いている。