地方都市で個店が移転する理由 郊外で新たなファン作り

2019/09/16 06:28 更新


 地方都市では新天地を求めて移転する個店が目立つ。基本的には中心市街地の集客力が大幅に落ち込み、郊外の路面立地にショップを構える例が多い。地方の場合、車社会のため、駐車場の有無が生命線といっても過言ではない。一部には、あえて中心部で街の魅力作りに挑む個店もある。いずれも新たな顧客開拓による次代の成長を目指す。

◇スロージャム

オーダーメイドアイテムを拡充したスロージャム

 茨城県水戸市の「スロージャム」(小貫光弘代表)は2年前に駅前の雑居ビルから郊外の路面立地に移転し、ファミリー層など新規客の獲得に成功している。

 移転した最大の理由は「地方は車社会なので駐車場を備えた立地が欠かせなくなっている」(小貫代表)と強調する。同店は6年前に立ち上げたメンズカジュアル中心の品揃え。その後、近隣にレディスのセレクトショップも開設した。当時から車での来店が圧倒的に多かったため、コインパーキングしかない状況に困っていたという。

 新店はJR水戸駅から少し離れた住宅街で交通量も多い道路沿いになる。美容室(1階)がオーナーの2層の建物の2階(約66平方メートル)にスロージャムが入った。1階には美容室のほかにパン屋など生活に密着した店舗もあり、集客などで相乗効果を発揮している。30~40代のファミリー層を中心に、近隣の主婦層や年配の人たちの来店も増えたという。駐車場は店舗横の7台分では足りず、50メートル先と70メートル先にも増やし、合計30台分を確保したことで利便性を高めている。

 移転を機に拡充したスーツなどオーダーメイドアイテム(紳士靴、シャツ)が売り上げを伸ばしている。ビジネスをはじめ、結婚式などの需要が目立つ。とくに紳士靴は堅調だ。

◇ラマルシェメルヴェーユ

アウトドアライフを提案するラマルシェメルヴェーユ

 栃木県宇都宮市中心部の商店街に店を17年間構えていた「ラマルシェメルヴェーユ」(水上宗典代表)は昨年春に車で約20分の郊外に移転した。

 新店は雑木林に囲まれたテナント用ログハウスが10軒以上並ぶエリア内。新店舗の設計段階から携わることができ、自然の中でウッドデッキにターフを張り、まきストーブを囲んでゆったりくつろげる空間を実現した。もともと同店は機能性とファッション性を追求したアウトドアライフの提案をしてきたため、ショップイメージを今まで以上に伝えやすくなった。幹線道路沿いなので車社会の地方都市では駐車場が少ない中心街よりも気軽に立ち寄れ、移転後に新規のリピーターも増えている。

 「数年前から遊ぶ場、おしゃれする場が街中から野外フェスやキャンプなどフィールドに変わった」との思いが強くなり、水上代表は郊外への移転を決意した。アウトドアライフを通じた常連客とのコミュニティー作りに力を入れており、カヌーでの川旅をはじめ、「野営会」(キャンプでたき火を囲みながら飲む)を定期的に開く。水上代表は「今の時代、SNSでのつながりだけでは満たされない思いを持つ人が多く、自分の居場所=コミュニティーとしてリアルな体験ができる場を求めている」と分析する。

◇ピックアップ

街の魅力作りに貢献するピックアップ

 福島市のピックアップ(高橋省吾社長)は9月にメンズの「ピックアップ」(先行して4月に移転)とレディスの「バーンズ」を移転・統合する。同社はJR福島駅から少し離れた立地で37年にわたり、メンズ店のピックアップを運営してきた。そこから派生したレディス店のバーンズはさらに離れた住宅地にある。今回の移転・統合では県庁近くの中心街に店舗を構えることになり、「商店街の異業種などとのヨコの連携を強めながら、新たな街の魅力作りに貢献したい」(高橋社長)としている。

 高橋社長は「個店を創業者一代限りで終わらせるなら別だが、次世代に継承していくには変化も必要だ」と強調する。新店は県庁や大きな病院、ホテル、銀行などにも近く、市内の人通りの多いエリアに開設した。周辺には、これまで街の活性化を主導してきた老舗眼鏡店をはじめ、そば屋、美容室、カフェ、若者に人気の古着店など魅力的な個店が集まる。「個店1店では集客に限界があるが、食べたり、飲んだり、買い物したりと楽しく過ごせる街の魅力がアップすれば来店動機も高まるはず」とヨコの連携に期待する。

 高橋社長は「移転後も植物による街づくりはライフワークとして続けたい」というスタンスを貫く。

(繊研新聞19年8月22日付)



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