《商社のクラウドファンディング活用広がる㊥》本来のゴール見失わず

2021/05/05 06:27 更新


 商社は、クラウドファンディング(CF)の取り組みを通じて新たな商品を開発するとともに、ビジネスの在り方を変化させる。

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(繊研新聞本紙21年3月11日付)

■ダイレクトに把握

 日鉄物産の繊維事業本部のなかでCFの具体化を担う事業開発部・イノベーション推進室は、CFの位置づけを「テストマーケティングとブランディング」と設定し、相次いで開発製品を打ち出している。

 これまでBtoB(企業間取引)で提案してきたサステイナブル(持続可能な)素材ブランド「エス」を使用したレディスTシャツ「5秒でキマる。365日着る大人女子のパックT」を昨年7月にCFに出品した。これにより「日本の消費市場でサステイナブルへの意識の高まりや、需要に対してダイレクトに把握する」などの活動を行い、主力事業であるOEM・ODM(相手先ブランドによる設計・生産)事業に還元した。

 自社フィットネスブランド「アクトフォート」のトレーニングウェアは、フィットネスジム通いをする社内の若手社員たちの発想から生まれた製品。軽量で防臭抗菌加工が施され、圧縮袋でコンパクトに持ち運べる。これは取引先とのODM提案に反映するとともに「将来的にはDtoC(メーカー直販)を見据えながら、自社ブランドとしての開発を進めていく」構えだ。

 同社の繊維事業本部・イノベーション推進室は、これらプロジェクトを進めていく一方で、「CFでは本来のゴールを見失うことがある」と言う。応援購入の目標金額達成や、CFに出品することが自体が目的になってしまうケースがあるからだ。「商社の立ち位置でCFで100万円を販売しても、それは売り上げの軸になるものではない」と言い切る。プロジェクトの結果を、いかにしてブランディングやOEM・ODMへのフィードバックに生かすかを常に意識する必要がある。

 イノベーション推進室は「CFプラットフォームでは、他社の新しいプロジェクトが日々、続々と挙がってくる。単に物が良いだけでは、その中で埋もれてしまう。購入への導線作りなども含めて、SNSやインフルエンサーを活用したマーケティングの重要性を実感している」という。今後、商社はアパレルなどの取引先が抱える課題の解決策を、物作り以外のEC関連も含めて提示できる多様な〝引き出し〟を持たなければならない。「外部のパートナーともアライアンスを組んで、アパレルの課題解決ができる存在を目指す」方針だ。

■プロや被災地向け

 モリリンの繊維資材グループは、〝色落ちしない黒タオル〟をCFで打ち出し、人気製品となった。このタオルは黒く着色したチップ状の原材料をわたに加工した後に紡績した糸を使用。白い綿繊維を染料で黒に染める従来のタオルに比べて、色あせや色落ちがしにくいのが特徴だ。目標支援金を50万円に設定して臨んだが、結果は400人以上が支援し、合計で約122万円が集まった。繊維資材グループは「新たな用途開発とマーケティングを兼ねて取り組んだ。プロフェッショナル向け商材「エヴァーナイス」シリーズの一つとして、美容業界での拡販に向けて手応えを得た」としている。

 モリリンは3月中旬から、制菌加工「ビオシールド」を活用して、衛生面から社会や環境に貢献する「MIZICA PROJECT」(みじかプロジェクト)の防災キット「セルフクリーニングウェア・オールインワンセット」を、CFを通じて販売する予定だ。内容物は①マスク②踏み抜き防止スリッパ③Tシャツ④ボクサーパンツ⑤タオル――の5点セット。

 これらのビオシールド加工を付加した製品(スリッパは非ビオシールド加工)のCFによる売り上げのうち、製造・物流コストを除いた利益相当分の同防災キットを自然災害などの被災地に寄付する。

モリリンは3月中旬から「セルフクリーニングウェア・オールインワンセット」をCFを通じて販売する予定


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