パリの窓からボンジョールノ!(松井孝予)

2020/04/02 16:00 更新


在宅、マスク、これぞお手本!ミックさんとキースさん

外出制限延長

ボンジュール、パリ通信員の松井孝予です。

新型コロナウイルス(フランスでは世界保健機構WHOが定めた「COVID–19」と呼ぶことが多い)感染防止措置としてフランス政府が発令した外出制限が、4月15日まで延長されました。

さらに延長となる可能性大。特例とされる外出項目の中身も厳しくなっています。

行動範囲は自宅から1km以内。散歩やジョギングは1日1回、持ち時間1時間以内。外出許可証には時間を明記しなければなりません。

そして基本は1人歩き。家族や同居人となら2人までOK。その場合は、同伴者との関係を示す証明書が必要です(エッ、そんな〜)。

規則違反者には罰金として初回135€、2度目は200€、その次は400€が課せられます。

外出制限が出されたばかりの頃がすでに懐かしいですね。子供連れ、犬連れ、運動着を着ていれば検問されることはなかったのですが。今は何人もコントロールされます。本当に厳しい。

お馬さんに乗った憲兵 外出許可証をコントロール

窓が象徴する連帯

白衣の医療関係者たち、毎日の食を支えてくれている人たち、生活の基盤を支えてくれている人たち。

みんなのヒーローがこの猛威を振るう伝染病の前線で闘っているのだから、私たちは家にいることを守らなればなりません。

もし、ウイルスに感染したら私は被害者。でもその菌を誰かに移したら私は加害者になってしまうのです。だからそのどちらも防がなくてはいけないのです。

パリでは2015年から悲劇や、まさか、の出来事が続いています。

幾度ものテロ(今だに手荷物チェックなどの警戒態勢が続いている)、ノートルダム寺院の火災、黄色いベストの暴動、長期スト_

その度、連帯して乗り切ってきたじゃないか!

「外出制限でストレスたまるでしょう〜」と思われがちなのですが、パリジャン、パリだけでなくフランス人たちは、不自由、窮屈、退屈、イライラなどの負の感情を「連帯感」に転換にする技を持っている。(もちろん、みんながそうではないのですが。)

ただし今度はパリジャンがこれまで経験したことのないような連帯、予想外の社会現象_

それは意外にも窓からはじまったのです。

窓辺で近所水入らず

個人主義、とか、プライドが高い、とか。フランス人の性格リストの上位は、こんな風に見られているようです。(特にパリジャン、ね。)

だからなのか、近所付き合いのきっかけは、子供とか犬が主流かも。

それがこの外出制限で突然、変わったのです。

誰もが窓からよく顔を出すようになり(外に出られないのだからそりゃそうだ)、お隣と窓越しに、「ボンジュール、サヴァ?」と生存確認を含めた挨拶をしたり、「ククー(米国語風に訳せば、ハーイ)」とお向かいさんを呼び出したて、笑顔を見せたり。

ええ〜っ、これまで相手を見て見ぬふりをしたり、お隣が窓から顔だすとパッと隠れたりしてたのに、ね。

外出制限を機に、いまさらながら隣人の正体が明かされ、付き合いが始まる(筆者も例外にあらず)。

まあ、都会では今までありえなかった生活が展開しています。

窓だけではありません。

外出規制が許す範囲で、近所のひとり暮らしのお年寄りや外出のできない方々のお使いをするなどのさまざまな助け合いが広がっています。

『ル・モンド』や『ル・フィガロ』の高級日刊紙をはじめとするメディアでは、外出制限を機に予想も出来なかったこうした社会現象を「フランス人のイタリア化」と名付け、続々と特集が組まるほど。

その反面、家庭内暴力の発生件数増という、実に嘆かわしい現実もあるのですが。

イタリアに学ぶ

医学博士で貴族院議員でもあった三宅秀(みやけひいず 1848年12月12日ー1938年3月16日)が著した『三宅医学博士黒死病二関スル演述』(1894年)の伝染病研究会による現代語訳kindle版が大変興味深い。

黒死病とはつまりペスト。

14世紀のフィレンツェ、17世紀のロンドン、18世紀のマルセイユで大流行したこの伝染病の文献をもとに、三宅医学博士は、交通の遮断が予防法として最も確実であり重要なのは間違いない、と指摘しています。

そしてこの交通の遮断をペストの感染拡大防止策として考案し、初めて適用したのがイタリア。1348年のこと。

まだこのおぞましい病気が伝染病であり、ペストであることもわからなかった時代にです(ペスト菌の発見は1894年にパスツール研究所の細菌学者アレクサンドル・イェルサン、そして同年、北里柴三郎によって発見)。

1374年、ミラノでペストが大流行した際に初めて避病院を設け、発病の届け出を初めて義務付け、看護人が患者を離れて10日間、他人との交流を禁止されること、患者の身に付けたものや什器を焼却処分か天日消毒することも、この時代にイタリアで始まった。

そして1485年にヴェネツィアで初めて医師と役人とで予防委員会が組織され、以来各国がこれに倣ったという。

その昔、欧州において実地に予防法を研究して定める例は非常にまれで、学理を有効に応用した予防法を実施したのはイタリアだけだったそうです。

そして今、コロナウイルスと懸命に闘っているイタリア。

WHOの緊急事態を統括するマイク・ライアン氏は、イタリア北部ロンバルディア州で集中治療を受けている患者の多さに、医師たちがこれほど多くの命を救っていること自体が奇跡だ、と語っていますが、これもイタリアの伝染病への何世紀にもわたる経験を振り返れば肯けるでしょう。

もうひとつ大切なこと。

病人の心を支えるは、世代を越えた家族の絆。

老人施設でのコロナウイルスの死亡者に歯止めがかからないフランスは、隣国イタリアから窓辺の近所付き合いだけでなく、家族を大切にする心も教えてもらいました。

それは食卓にも反映されています。

外出規制にはいってから、フランスでは「家族でパスタ」ブーム。パスタのレシピが人気急上昇!

エンターテイメント化する窓

「メルシー」アート

窓は心を表現する、文字通り「心の窓(鏡)」にもなっています。

今の生活を支えてくれている人たちへ贈る「メルシー」の垂れ幕を窓に掲げたり。窓にトリコロールを飾り、通行人たちと「がんばろう」を共有したり。

イタリア、スペインの国旗を見かけることも少なくありません。

はたまた建物のお向かいさんとのコラボレーションで、洗濯物を干すように病院のシンボル白衣を空中にインスタレーションしたりと、アーティスティックな空間が広がってきています。

窓から「メルシー」
お向かいさん同士で白衣のインスタレーション

ディスコ サンポール

イケてるオーガニゼーションだぜ!

前回のレポートでお伝えしましたが、今日の健康を支えてくれたみんなに感謝する、20時の窓からファンファーレ。参加世帯が続々と増えています。

パフパフの鳴り物がなくても、「メルシー」「ブラボー」の歓声、拍手、台所用品パーカッション(特に鍋&おたま)のオーケストラ!

1日の緊張が感謝とともに喜びになる時です。

メトロ1号線サンポール(マレ)界隈はメルシーファンファーレに引き続き、10ミニッツディスコに早変わり。窓やバルコニーが、ちょいと控えめなお立ち台に変身。

誰が選ぶか知らないが、懐かしのヒット曲に乗って10分間、お隣さんやちょいと遠いがお向かいさんとアイキャッチしながらダンシング。(フランスらしく、ここから恋が生まれたりするのだろう!)

このナイスなオーガニゼーションの時間を目指してやってくる近所の住人や犬で、サンポール教会の小さな広場は束の間の「ディスコ・サンポール」になる(注:1メートル以上の間隔をあけて)。

夕食配達人、時にはパトロール中のお巡りさんたちまでつい腰をフリフリ(しているのを見た!)。

曲が終わると当時に、「また明日!」と潔く解散。さあコロナ収束を願い明日も(自宅で)がんばろう!



動物だって

動物たちは世の中の変化に敏感だ。

「お天気なのに、なぜセーヌ河岸に人気がないの?」サンルイ島を拠点にするカモはそう思った。

誰かに聞いてみよう!

カモは行動に起こした。

いつもの河岸から人間の歩道まで、初めて移動してみた。

とまあ、サンルイ島ではこんなシナリオが本当のような光景に出会います。

しかも対岸にはトゥールダルジャン(カモにとって天敵)があるのに!カモよ、怖くないのか!でも今はこのレストランも休業中か。

カモは普通、近づこうとすると逃げるにの、最近は逃げるどころかクワクワ近づいてくる。人間の方が驚いて引いてしまう。どうしたんだ、カモ。

人間がいなくて追いかけごっこができず退屈したのか、それとも寂しいのか。パンを投げる人も少ないから、お腹空いてるのか。と、パンを差し出すとよろこんで食べてくれる。

【カモとある家族の会話】あれ〜おかあさんのバックどこかで見覚えが。/そうだ、プルミエール・クラスのバックじゃないか!

いつも姿を見せないカフェの猫も、世間の静けさを不思議に思うのか「ボンジュール」と顔をだす。

カフェ猫も市場調査に街にでる

「ペスト流行が長期にわたるにつれ、人々は一種の思考停止、感覚麻痺に陥っていく」

これは『ロビンソン・クルーソー』の著者、ダニエル・デフォーがロンドンで17世紀に流行ったペストを記録した、その題名もずばり『ペスト』にある言葉です。

窓辺の近所付き合い、20時のファンファーレ、そして人間を気にかけてくれる動物たち。

みんな外出制限時の気分を変えてくれる特効薬です。

連帯よ連帯よ、メルシーボクー。

前回までのレポートはこちらから


松井孝予

(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。

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