スポーツ向けアパレル主軸の縫製業、サトウ繊維(熊本県天草市)は今年10月から、「完全週休2日制」の導入を決めた。繁閑の差が大きい縫製業で、しかもメーカー系ではない独立した量産工場としては極めて珍しい。主要取引先には電話やメールで説明したが、突然の知らせは彼らを一様に驚かせた。世はインフレでも加工賃はさほど上がらず、前売りが悪くなるとそのしわ寄せは大抵工場に行く。発注元がもうかっている時ですら、その恩恵を被ることはまれだ。得意先の理不尽な要求があっても、縫製工場はこれまで黙っていて声を上げることはなかった。同社が「完全週休2日制」導入ののろしを上げた理由とは――。
(永松浩介編集委員)
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30年前の当たり前
現状、変形労働時間制で、繁忙期が月~土、閑散期は月~金が営業日。完全週休2日制を取り入れると、休日が年間で15日間増え、逆に総労働時間は1960時間にまで減る。季節商品である衣料品は店頭に出るタイミングがおおむね同じ。そこから逆算すると当然、生産の繁忙期は集中する。婦人服であれば、カットソー製品やブラウスは3〜6月、ニットや重衣料は8〜11月が忙しい。

加工賃が売り上げなので、休む日は収入はない。そのため、「休日増は恐怖」と小山亮太郎取締役工場長。年間で1000万円ほどの減収は痛いが、従業員の離職防止と新規採用を増やすために決めた。決断には勇気が必要だった。最悪の場合、工場運営が成り立たなくなる可能性もあるという。
それでも決意したのは、小山さんの息子が父の働く会社での仕事に興味を持ち始めたことが大きい。「10年後もワーカーが確保できているのか。物流の営業所やミシンの販売店はあるのか」。心配が募る。息子のような若者が展望を持って働ける環境を整えるのが自分の役割と考えた。
息子が通う県立高校の繊維系学科の卒業生の半数は就職するが、求人募集はあるものの、繊維企業に進む学生は皆無だという。理由を探ると、土日が休みではない職場は、就職先として検討の俎上(そじょう)にも上らないことが分かった。
「人が集まらないと早晩閉業せざるを得なくなる。だったらやるなら今」。そもそも、国内で完全週休2日制が広がったのは94年頃。30年以上も前に当たり前になった話が話題になる方がおかしいと小山さんは言う。

出す気がないだけ
取引先の反応は様々だ。納期の遅れを心配する向きもあるが、将来を見据えると「そうだよね」と納得してくれる人も少なくなかったという。ユニットレイバーコストでは海外と日本でさほど差がなくなっているため、委託元も逆に工場に頼らざるを得ない面も出てきた。かつてとは状況は違ってきている。
こたえたのは同業者からの反応だ。
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