【記者の目】コロナで需要高まるキャンプ 自然指向、さらに加速

2020/10/11 06:27 更新


【記者の目】コロナで需要高まるキャンプ 自然指向、さらに加速 単価上昇、市場に力強さ

 多くの企業が新型コロナウイルスの影響を受ける中、キャンプ用品業界だけ様相が異なる。緊急事態宣言に伴い4、5月に大半の店舗が閉まったにもかかわらず、多くの企業で宣言解除後に売り上げを急回復させ、通期で増収増益を見込んでいる。感染リスクの少ない屋外レジャーとして注目されているためだが、根底には消費者の自然指向の強まりがあり、コロナによりそれが加速した。中小メーカーが生み出す魅力的な商品も、市場に活気と力強さを生む。

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■半期で負け取り戻す

 スノーピークは4、5月に25あった全ての直営店を一時閉じたが、再開後は会員数が増加。6月は単月で新規登録数1万人を突破し、最多となった。同社の今期(20年12月期)は海外事業の好調もあり、売上高で150億9100万円(前期比5.8%増)、営業利益では当初予想を上回る10億5000万円(13.6%増)を見込む。

 「ロゴス」を製造・販売するロゴスコーポレーションでは上期(3~8月)、直営の「ロゴスショップ」など小売事業の売り上げが前年同期比微増、卸事業が3%増となり、4、5月の自粛期間中の「負け」分を上期中に取り戻した。専用ポンプで空気を注入するだけで簡単に立つ大型テントなどが売れ、テント分野の売り上げは80%増。好天が続いた8月の直営店売り上げは前年同月比で1.5倍となり、売上額で過去最高となった。下期も強気の予算を組んでおり、通期で増収増益を計画する。

 好業績の背景にあるのは、キャンプ自体が屋外でのアクティビティーで感染リスクが少なく、家族で楽しめるレジャーとして注目されているためだ。ロゴスの柴田晋吾取締役副社長執行役員は「遊園地、映画館、カラオケ、外食など家族で楽しめるエンターテインメントがコロナにより敬遠された。『できない尽くし』の中、外で活動できるキャンプやバーベキューがおのずと注目された」と分析する。

 スノーピークの山井太代表取締役会長も、「コロナ以前に比べ、キャンプへの社会的ニーズが1.5倍ほど増した。『自然の中に人が出向く』というモチベーションは今、世界中で高まっている」と強調する。

■本質は「自然回帰」

 ただ、こうした現象はコロナの終息で終わる一過性のものではない。かねて消費者の自然回帰は起きており、コロナでそれが加速したと見るのが正しい。

 事実、キャンプ参加人口とキャンプ用品市場はここ数年伸びている。日本オートキャンプ協会(JAC)によると、オートキャンプ人口は、13年以降7年連続で緩やかに伸び、19年は860万人と推定する。キャンプ用品市場も09年から11年連続で伸び、19年の推定金額は753億円だ。


 要因としては、キャンプの通年化や、ソロキャンプなどスタイルの多様化、キャンプ場自体を社員研修やオフィスとして活用する新しい動きの出現――といったことが挙げられるが、一言で言えば、消費者の自然回帰、自然指向の強まりだ。スノーピークとの仕事が多い建築家の隈研吾氏は、「これまでは都会的な感覚が美しさの条件にあったが、今は自然の中に人は美しさを感じるようになっている」と指摘、自然指向の強まりを美的感覚の変化として捉える。

 用品市場の力強い成長も自然回帰指向を裏付ける。実はJACのデータでは、19年の参加人口がピーク時の約55%にとどまったのに対し、市場規模はピーク時(96年)の760億円に迫る勢いを示した。製品単価が以前より上昇しているのと、キャンパーの年間購入額が増加しているためだが、それを実現したのは、ユーザーが買いたい魅力的な製品がマーケットに次々と生まれ、キャンパーの購買意欲を刺激していることに尽きる。

 キャンプにはテントやタープなどの幕体、ファーニチャー、スリーピンググッズ、ランタン、たき火台、調理器具、バッグ類とジャンルが幅広く、それぞれに特化した専門メーカーやガレージブランドがある。今年なら、「ゼインアーツ」(テント)、「サンゾクマウンテン」(ランタンハンガーなど)、「ベルモント」(たき火台)などがヒットし、マーケットに活気と力強さを作り出している。

 コロナ禍は今後も1年は続くと見られるが、終息しても消費者の自然回帰の流れは変わらないだろう。ファッション業界はこうした指向変化に合わせたビジネスモデルの構築を迫られている。

杉江潤平=本社編集部スポーツ・アウトドア担当

(繊研新聞本紙20年9月7日付)

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