21年春に立ち上げた「タナカダイスケ」は、刺繍をはじめ装飾的な表現を強みにファンを増やしている。デザイナーを目指す人には「人の心を動かすくらいクリエイションを磨くことに没頭してほしい。結果がすぐに出なくても、あきらめずに挑戦し続けられるかどうかも大きなポイント」と自身の経験を振り返る。
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――ブランドを立ち上げる前は。
「アレキサンダー・マックイーン」の刺繍を生かしたオートクチュールを見て、専門学校で学ぼうと決めました。大阪文化服装学院を卒業後、某ブランドに入社。学ぶべきことがたくさんありましたが、ブランドの色がどっと入り込んでしまい、自分の判断基準が変わってしまいそうだったこと、自分は若さやセンスで勝負すべきタイプだと思っていたことから、半年で独立しました。独立後は、刺繍のテクニックを生かした物作りで衣装を制作。徐々に依頼が増え、お世話になった前の会社のデザイナーの方からも温かい言葉や、刺繍の仕事を頂きました。刺繍作家であり、ファッションもできることが自分の強みです。
――21年にブランドを立ち上げた。
サクランボを刺繍したマスクが話題になり、関連して前の会社にいた方に相談したのがきっかけです。パッチワークス(東京)と組み、私がクリエイションに専念できる形で、タナカダイスケの事業に踏み出しました。初めはECの予約販売だけで、今シーズンからコレクションピースとともに、卸に対応したラインも始めました。予約販売だけでは、今ほしくても次シーズンまで待たないと買えない人もいたので、その問題をカバーできるようになりました。コロナが落ち着いてから、実際に服を見て感じて買いたい人も増えています。
――今後の目標は。
「トーキョー・ファッション・アワード2024」で受賞し、24年にパリの「ショールームトーキョー」に参加します。服作りでは、ドリーミーな魅力に加え、例えば機械刺繍を使って洗えるようにするなど、バランス良くリアルクローズに落とし込む工夫をした服も増やしています。コレクション用と、卸向けのラインのどちらも、薄味と思わせないようにしたいです。
――デザイナーを志す人へ。
私のブランドは、オートクチュールの発想から手仕事をふんだんに生かす独特の立ち位置です。それでもビジネスが成立しているのは、刺繍をはじめとした服作りに、狭い視野で、コツコツと没頭し続けてきたからこそ、今があります。
今の社会はSNSで周りが見え、誘惑も増えましたが、もう少し我慢しようと言いたい。たった一つの作品だけであきらめず、なるべくたくさん生み出し、挑戦し続けることが肝心です。その時の努力は、いつかきっと戻ってきます。この人に投資してみよう、と思わせるぐらいまで、努力を惜しまないでほしいです。