「タナカダイスケ」の受注生産 手仕事のチームで持続可能なビジネス構築

2023/05/11 11:00 更新


23年秋冬のテーマは「ビハインドザムーン」。チュールにビジュー装飾をちりばめたマントに、ネッカチーフをヘアアクセサリーにしてスタイリング

 デザイナーでエンブロイダリーアーティストの田中大資が手掛ける「タナカダイスケ」が、受注生産型のBtoC(企業対消費者取引)を一段と成長させている。個展に連動したECの受注販売に加え、昨年から伊勢丹新宿本店での催事が加わり、客層の幅も広がった。ブランド事業をマネジメントするパッチワークスは、手仕事の製品を量産するチームを組織し、持続可能なビジネスを構築している。

 パッチワークスの長谷部啓介社長は、21年春夏のデビュー時から、田中がクリエイションに専念できるよう、その他の業務を担い、ビジネスを両立させる基盤を作ってきた。強みは、叙情性を感じさせる刺繍やビーズのクラフトワーク、アートを身に着けるような感覚の服作り。22年3月に楽天ファッション・ウィークでランウェーショーを見せており、その後も舞台や雑誌媒体での露出は頻繁だ。バストラインやウエストをビジューで装飾したドレスは十数万円になるが、1回の受注枠では対応しきれず、受注生産を繰り返し続けるモデルもある。小物は洋服に重ね付けして映えるボディーアクセサリーやグローブ、バッグなどが充実。発表したシーズンを問わずにスタイリングのできる「コレクション性の高いラインナップ」によってコアなファンを魅了する。一方で、象徴的なモチーフを入れたTシャツなど2万~3万円台で日常使いやすいアイテムも揃え、幅広い層の支持を可能にしている。

 毎シーズン、コレクションを発表し、一定期間にECで受注した分だけを生産する。人気商品は、シーズンを超えて受注生産し続ける。長谷部社長は、アート性の高い既製品を欲しい人に届けるビジネスモデルを組み立て、アトリエを拠点に手仕事のクオリティーを維持する生産体制も徐々に整えた。田中が作り上げる手刺繍の世界に憧れ、その手仕事やクリエイションに携わりたいと希望する人材は少なくない。製品の付加価値を保って受注販売する仕組みによって、手仕事の作業に十分な人件費を確保することができ、都内で若手を中心とした生産チームを組織している。パッチワークスの社員は5人だが、「アルバイトのほかに、空き時間を利用して引き受ける人もいる」。意欲の高い人材の力で、手刺繍をふんだんに入れたセーターやスパンコール刺繍で装飾したポシェットなど、手の込んだモチーフを融合した製品をコンスタントに納品できる。

秋冬は新たに、カットに特徴を出したフォーマルウェアも揃えた


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