未来の子供たちに何を託したいだろう。私はシンプルに、豊かで美しい自然や、素晴らしい伝統文化・技術を残したい。次世代に引き継ぎたいと願う文化・伝統は、海外からのニーズが非常に高い。ハイブランドでは、藍染め工場や縫製工場を買収する動きがある。彼らは文化・伝統の価値を知っているからだ。彼らが欲しいものは、技術や伝統的な柄、マテリアルはもちろん、真の目的は、私たちが何千年も受け継いできた「歴史」そのものを取り入れることではないか。
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のどから手が出るほど
連載の第3回で、ブロックチェーンで利益の行方を追える仕組みを紹介したが、この「追跡可能性」(トレーサビリティー)だけでなく、「透明性」(トランスペアレンシー)と「信用性」(トラスタビリティー)もシステムで担保できる。どこから素材や資源を調達し、どこで誰が製造し、誰の手に渡ったのか、全て追うことが可能だ。信用スコアまで導ける今、文化・伝統の価値は他国からすれば、のどから手が出るほど欲しいものと理解する必要がある。資本主義社会で伝統や技術が買収される時、それらが私たちのものであることを契約上、証明できなければ、私たちは未来の子供たちのために何を守り、託すことになるだろう。
新時代を迎える準備期間に突入した今、全員とは言わないが、経済の担い手、企業家をはじめとする一人ひとりが文化・伝統の価値や、技術により実現できるものが何かを意識したビジネスをしない限り、新しい資本主義社会で日本は世界的な役割を失う危険性がある。もしかすると「労働」を安く提供する国として、今後の100年を過ごしかねない。
「人」が地球の可能性
ビジネスを通じて何が出来るか? 私の答えは、消費の仕組みを変える「サステイナブル・エコ・ソサエティー」(循環経済の仕組み)の実現にある。誰もが買い物を通じ、無意識に社会課題解決に貢献できる仕組みは、アニミズムベースの文化が息づく日本に生きてきたからこそ、考え付いたとも言える。国連が示す「Profit and Prosperity」(利益と全体の繁栄)とは課題解決を先に考え、社会や地球といったステークホルダーと共に発展していけるという概念だが、まさにアニミズムの文化が体現してきたことだ。持続可能な社会形成のための解は灯台下暗し、自分のルーツにあったわけだ。
私は19歳で、バックパッカーとして世界中を旅して回った。そこで出会った人々は、みんな根は優しく、愛にあふれていた。お金や利害に関係なく、心がある人たちばかりだった。それが人の根本なのだとしたら、「人」こそが、地球上で最大の可能性なのだという確信がある。
原点に回帰しよう。世界がどうあって欲しいか。子供たちに何を残したいか。地球が美しく循環し、多様な生態系が守られ、文化伝統が継承される未来を望まない人はいないだろう。未来のために一歩踏み出したいと願うなら、自分の育った国の歴史を知ることで道は開かれる。この資本主義社会で、世界を動かせるのは、国や国連ではなく、消費者の私たちだ。私たちが希望だ。
(Freewill CEO・トシ・アサバ)
=おわり
【連載】サステイナブル・エコ・ソサエティー