《名店オーナーが見据えるコロナvsファッション消費》サロンモード 山口健次郎社長

2020/06/14 06:30 更新


 佐賀県鹿島市のレディス専門店サロンモードは創業71年目を迎えた。「地域の発展とお客様のため」との思いを愚直に守り、佐賀県内で18店を運営する。2代目となる山口健次郎社長は新型コロナウイルス感染症拡大に、「今までに経験したことのないことが起きている。終息しても、以前のような状態には戻らないのでは」と、危機感を抱く。だが、経営者が決して下を向くことなくかじを取り、一丸となり乗り切ることが企業の生き残りには欠かせないと、3代目となる山口賢人専務とともに陣頭指揮を執る。

(古川伸広)

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 ファッション業界に携わり、古くは70年代のオイルショックから地震、台風などの災害、リーマンショックなどを体験、企業を継続してきました。しかし、今回の新型コロナウイルス感染はこれまでの局地的なものと違い、日本全国及び世界で同時に起きています。先が見通せないのは初めてで、終息しても終息前の状態には戻らないほど環境が変わると感じています。例えば、飲食ではテイクアウトが自然になっていくような雰囲気で、ウーバーイーツなどの配達が進化しています。これを機会に消費者の購買動向が変わり、ファッションも違う環境や新たなステージになるのではないかと思っています。

最善の対応で攻め

 現在、営業時間を短縮して路面店など12店の営業を続け、SC内6店は休業しています。3月までは佐賀県の感染者数も少なく、比較的影響は受けませんでした。しかし、4月は今までにない厳しさですね。隣接する福岡県の感染者数が日に日に増加して福岡に通勤や通学している人も多く、警戒感が強まりお客様のメンタルが落ち込み、外出を控える人が増えていると思います。

 私の気持ちは落ち込んでいません。こういう時こそ、経営者がネガティブにならず、しっかりしなければ、社員にも伝わるからです。気持ちはつらくても出さず、乗り越えていかなければいけません。基本は攻めです。販促活動も止めていません。通常の月間の販促や売り出し、イベントなどを行っています。その代わり、マスク着用や消毒、空気洗浄機などを準備し、お客様が安心して来店できるような環境作りは徹底しています。

 IT化もこれを機に拡大します。一部の店舗だけだったインスタライブは全店で行い、スタッフがお客様に向けて楽しく着こなしや商品を紹介。問い合わせや予約も入っています。路面とSC店含めZoomで全店舗の朝礼を行っています。便利なので、これを機にIT化をより強化しようと考えています。ネット販売は海外向けも含めて取り組みを強化していたところですが、海外向けは現在ストップし、国内を強めています。

サロンモード本店

どう寄与するか

 正直、体力がなくこの状況に耐えられない企業も出て、店は減るでしょう。だから生き残った企業が勝ちではないが、生き残った企業は変わる世の中にどう寄与できるかをしっかり考える必要があります。現状はある意味、オーバーストアな部分もあり、メーカーや小売りも淘汰(とうた)されるでしょう。コロナで駄目になったのはなく、コロナの前もアパレルは厳しかったので、このままでは拍車をかけてファッション業界はより悪化する可能性があります。百貨店やショップなどが休業するなどで、メーカーは商品を出荷できず、窮地となれば我々も営業できません。メーカーも一緒に生き残っていかないと駄目です。

 企業を支えてきたのは、「地域のため、人のため」との思いを大事にしてきたこと。大店法緩和の時は商店街の疲弊につながりましたが、地元商店街を「スカイロード商店街」として再整備してにぎわいを創出しました。一方で、SCで購買するお客も増え、いち早く郊外SCのゆめタウンに出店しました。しかし、佐賀県以外には出店しませんでした。福岡などから多くの出店依頼もありましたが、かたくなに地元にこだわりました。

 福岡で1万円稼ぐのも、佐賀で稼ぐのも一緒で、価値は同じです。であれば固定費なども低い佐賀で地元に貢献していくことを選びました。ほかで扱えない商品をいち早く導入し、地元のお客様に満足してもらう。継続は力なりで、うれしいことに信用や信頼、安心につながっています。我々は「アパレルが厳しいからやめる」というわけにはいかない。地域のために使命があります。だから何が何でもとの思いでやってこれました。自社だけではなく、周囲のことも考え、いろいろと勉強し忙しく汗もかき、努力してきました。環境が変わっても軸となる点はぶれずに行っていきます。

無理はしなかったが、勉強と努力を欠かさずに一生懸命だったと語る山口健次郎社長

簡単な時代ではない

 忙しくても楽しかったですよ。手を打っただけ、頑張った分だけ成果に結びついていましたから。しかし、今はそんな簡単な時代ではなく、過去のことを言っても仕方ありません。これれからのことを考えて手を打っていくことが大事です。以前と比べ、大変な時間と労力が必要になると思います。言い方は悪いですが、例えばバブル時期は誰がやってもある程度できたが、今の低成長時代はかなり勉強しなければやっていけないと思います。

 変わる時流に対応する意味でも、専務の意見や考えも取り入れ、一緒にやっています。IT化などはほぼ専務主導で、私では考えられないことを進めてもらっています。急に世代交代しても立ち行かないことも見てきました。良いと思うことは受け継ぎ、自分で良いと思うこともやっていく。経営者がもっている知識や知恵をどう生かせるかで、企業の運命も変わってきます。乗り切るためには先を見ながら、過去に捕らわれずにやることが重要だと思います。

 各地で感染者が増えています。九州の専門店15社で構成する勉強会「FFC」でも電話や相談などのやり取りが増えています。とりあえず、国の政策はすべて活用し、資金は借りられるだけ借りるようにと言っています。ただ、この機会に企業の現状と今後をしっかり精査し、終息後の状況や方向性を考え、返済可能な最大限で借りること。複数店あれば一部の店を閉める判断もありえます。

 臨時休業の場合、スタッフへの給与もできれば国の制度に加えて支払い、人材を確保しておくことも大事だと思います。休業中に、他店や他業種に移る人もゼロではなく、ショップ再開後に営業できる体制を整えておくためです。融資を受けても業態を変えての再出発やリアル店舗からネット販売軸など、考え方次第では活路はあります。終息しても環境は変わり、立て直しは容易ではないと思いますが、借りたお金を有効に使う知恵を絞る時期です。

 収束してもインバウンド(訪日外国人)はすぐには戻らないでしょう。世界規模ではそうとう時間がかかります。観光業はアパレル以上に大変ですよ。佐賀の大型ホテルが倒産しました。一方で、同地区の個人客中心の旅館は厳しいようですが営業を続けています。主に団体客やインバウンドで好調だったホテルは売り上げが100からほぼゼロに。小規模な旅館は団体客を受け入れられないが、趣向を凝らして常連さんなどを獲得していた。観光業も色々な生き方があり、考え方次第だと思いました。

 戦略的にあらゆる手を考えなければいけないが、普段から知恵を出して工夫している企業は生き残っていけると思います。廃業もあるかもしれないが、コロナに負けないでここを乗り切り、アパレルも一軒でもなくならないようになって欲しいです。

(繊研新聞本紙20年5月11日付)

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