《名店オーナーが見据えるコロナvsファッション消費》エムロマン 大村秀子社長

2020/06/13 06:28 更新


 東京・麻布十番のセレクトショップ、エムロマン・パート2が4月9日に全面リニューアルした。同店はインポートブランドを主力に大人のセクシーな魅力がたっぷりのリッチカジュアルなファッションを発信する。オープンに向けて、インスタグラムなどSNSを通じて顧客を招待し、お披露目した。大村秀子社長は「4月にリニューアルすることは以前から計画していたこと。こんな時にこそ予定通りにオープンして、お客様に喜んでいただきたかった」と話す。政府・自治体から非常事態宣言が発令されるなかでの開業は、エムロマンの後継者で娘の大村真奈美副社長はじめスタッフが揃って反対した。しかし、大村社長は「私一人でも店に立つ。クローズドで顧客限定で接客する」と揺るがなかった。「ファッションが好きだから」との強い思いがあった。

(北川民夫)

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一貫してインポート

 私は子供のころから洋服が好きで、よく米国製の着せ替え人形で遊んでいました。中学3年生の夏休みに、初めて自分でワンピースを作った。飾り気の無い白い無地の物でしたがお気に入りの一着。私にとってのファッションへの目覚めでした。編物で財布やハンドバッグを作っては、母にプレゼントして喜んでくれました。ファッションを通じて人に喜びを伝えることを実感しました。10代のころには地元の熊本市内の服飾専門学校へ進学。学生だったのでお金はなかったですが、「エルメス」や「セリーヌ」のベルトを背伸びをして買っていました。

「こんな時こそお客様に喜んでいただきたい」と大村社長

 20代で上京して、姉と一緒に東京・日本橋室町で「カフェロマン」という名の喫茶店を開業しました。オフィス街の中にある私たちの店を訪れるお客様を相手にオーダーメイドでレディスジャケットを仕立てる仕事もしました。当時、はやっていたディスコ、赤坂ムゲンにもよく通ってましたね。

 30代からインポートを中心としたレディス専門店をスタートしました。この頃から私の身に着けるファッションが劇的に変わりました。きっかけは「モスキーノ」を店で扱い始めたこと。カラフルでインパクトのあるデザインに引き付けられた。モスキーノは国内で有力百貨店もまだオーダーを付けていなかった頃。イタリアに出向いて創業者のフランコ・モスキーノと直接商談して買い付けました。以来、私のお店では一貫してインポートブランドを扱うセレクトショップとしてお客様を迎え入れています。

 エムロマンは現在、麻布十番かいわいで3店を運営しています。顧客は30~40代を中心に、港区周辺に住む人だけでなく大阪、名古屋などの遠方からの来店もあります。私のセレクトで商品を揃えているので、ブランド直営店にも無いものがエムロマンにはあります。「エリザベッタ・フランキ」「エルマンノ・シェルヴィーノ」「デニーローズ」「ハイドロゲン」「ドロシー・シューマッハ」など、いろんな商品によるブランドミックスで構成するショップとしてインポートファンに親しんでもらってます。

顧客からも街からも欠かせない存在

みんなに喜ばれ

 今はショップスタッフや来店するお客様の健康を考慮して、店舗面積の狭いエムロマン・パート1とエムロマン・パート3はお休みして、広い店舗(165平方メートル)のパート2だけをオープンしています。営業時間も2時間短縮して、12時から18時まで。コロナ禍以降はさすがに遠方からのお客様は減っていますが、近隣の顧客には立ち寄って頂いています。3月は前年同月比の売り上げをクリアしました。4月に入っても週末には多くのお客様に来ていただいています。

端午の節句に合わせた手作りのディスプレーは大村社長によるもの

 パート2の全面改装のために4月初旬に1週間程お店を閉めていた時には「あのエムロマンが店を閉めている」と、お客様や麻布の多くの方に驚かれました。それまでは年中無休で開業していましたし、コロナの感染拡大のなかで心配されたのです。

 4月9日に新しい店をお披露目する際には、外人モデルを確保して、ショー形式のパーティーをしようと直前まで計画していました。でも国内で感染が徐々に拡大するなかにあって、モデルたちも「帰国したい」と申し入れてきたので、残念でしたがショーは断念しました。でも、お店のオープン当日には常連のお客様が駆けつけてくれて、みんなに喜んでいただきました。なかには「このお店が開いていて、本当に良かった」と涙ながらに言っていただける方もありました。

 私には特に中長期的な経営戦略がある訳ではありません。だって、今回のコロナ禍なんてこの先どうなるか誰にも分からないじゃないですか。これからは、その時々の状況に応じて判断しないといけないと思います。

 今回のコロナ禍は08年のリーマンショックや、11年の東日本大震災とは異なる災いの大きさを感じます。私はこれを契機に自分の娘の真奈美にショップのマネジメントを本格的に譲ることを考えています。経営のバトンタッチの準備を着々と進めています。 

後継者である大村真奈美副社長(右)へ経営のバトンタッチも進める

ギフト需要高まる 大村真奈美副社長

 社長は緊急事態宣言が出されて以降も、毎朝8時には全スタッフにLINEを通じて、メッセージを発信して皆の気持ちを奮い立たせています。「お客様がいらっしゃらない時でも、プロ意識を持ってしっかりとしたたたずまいでいなさい。その様子は外からでも見えますよ」などと指示を出しています。エムロマンは社長が作り上げた舞台をベースにしながら、スタッフみんなで作り上げるショップです。コロナ禍以降、お客様の購買傾向に変化があります。リモートワークが広がるなかで、上半身をきれいに見せるブラウスやアクセサリーなど、ウェブ上の画面で映える〝リモート映え〟する商品に人気があります。ギフト需要も高まっています。遠方への移動が規制されていることもあり、地方に住む母親に向けてのプレゼントを購買していただくことが多くなっています。その際にお客様から求められるのは〝気分が明るくなるお洋服〟です。長い期間お家で過ごすのにふさわしい〝着心地が良くて、キラキラした元気が出る〟エムロマンらしい服が今こそ求められていることを日々感じています。

(繊研新聞本紙20年5月8日付)

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