《名店オーナーが見据えるコロナvsファッション消費》ディアナガーデン 保田惠一オーナー

2020/06/13 06:29 更新


 上品カジュアルをうたうレディス専門店ディアナガーデンは、大阪府箕面市の高級住宅街にある。保田惠一オーナーとスタッフの石原幸愛さんの磨かれたセンスによるコーディネート提案を最大の強みに、ネットショップを否定し対面接客にこだわる。保田オーナーは外出自粛のさなかでも来店する顧客の姿から、専門店としてのあるべき姿に確信を持つ。

(津田茂樹)

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4月は客数減を客単価でカバー

 現在、新型コロナウイルスの感染拡大防止とお客様の安全確保を優先し、休日を増やし、営業時間も閉店を1時間早めています。基本的には予約制なので、予約のない時にはアナウンスをした上で休日としています。状況が日々変化するなか、行政の自粛要請には応じる心構えでおり、人出が多くなるゴールデンウィークの4月26~5月6日は、5月1、2日を除き休日としました。外出を控えることが大事な時期に、集客しようとは思いません。

 来店予約は3、4割減りました。客足が減り、半年前のオーダーでデリバリーされた商品がたまり気味になっているのが現状です。コロナへの対応に慣れていなかった3月は売り上げを少し落としましたが、4月は伸びました。客数は大きく減少したものの、客単価が大きく伸びているからです。数多くのセレクトショップの中からディアナガーデンを選んで来られる方は、本当に服が好きなのだと思います。だからこそ、このような状況で多く服を買う行動になるのだと思います。自分で言うのも変ですが、この時期に売れるのはすごい店だと思います。

 換気扇も増設し、室内湿度も55%以上になるように調整しています。マスクをお持ちでない方には渡して、ソーシャルディスタンスを守るなど、接客で考え得る対処はできる限り実践しています。原則として入店は1組限りとし、ペットボトルの飲料水を渡して、水分補給をしてもらいながら買い物を楽しんでもらうようにしています。当店は予約制ですが、これまで一見のお客様も入店していただいていました。今はその場で予約をお願いして、改めて来店してもらうようにしています。

 今の状況で来られるお客様は「ごめんなさいね。今、開いてる?」と、少しマイナスの気分で入店されます。そうしたお客様ほどプラスの気持ちで帰さなければならない。売り上げを伸ばせたのはマイナスのお客様の気分をマックスまで上げて帰すことができる優秀なスタッフの存在によるものです。

 マスクを着けての接客や他の安全対策を強めたことで、スタッフは肉体以上に精神面での負担を感じています。その負担を軽くするためにも、営業時間を短くすることは必要だと思います。厳しい時期だからこそ、まずは売らなければならないという専門店経営者の方もいますが、私はスタッフに「頼むから売ってくれ」と願ったことは一度もありません。私は販売という仕事を、感動、絆、感謝を分かち合うエンターテインメントと考えています。せっかくのエンターテインメントも肝心のキャラクターが元気なければ発揮できません。まず店が安心・安全であり、スタッフが健康であること。これが何より大事です。これが欠けると感謝も絆も得られません。

 今のところ衣料品小売店は自粛要請の対象ではありませんが、営業する限りは、お客様とスタッフの安心と安全が得られるように、本気で取り組む責任があります。販売は私を含めて2人ですが、接客はマンツーマンを原則としてどちらか1人は裏に控え、できるだけ接触機会を減らすように心掛けています。

店内に換気扇や保湿機を増設し、ウイルス対策を強めた

真剣に向き合い不安をなくす

 ネットショップを開設して、売り上げを確保している専門店もありますが、私はインターネット販売は今後もするつもりはありません。遠方の顧客で「どうしても店に行けないが、ブログで紹介されている服が欲しい」という声には個別に応じていますが、カートを設けたショップサイトを開設しようとは思いません。ネットショップでは、エンターテインメントが発揮できないと思うのです。

 ディズニーランドのリピート率は95%以上と言われています。それは思い切り楽しんだうえで、最後に「ありがとう」と幸せな気持ちを持って帰られるから、成し得るのだと思います。私もその考えに共感して接客を心掛けてますが、ネットショップではその実感が得られないと思います。同時に絆や感謝が得られる仕事の面白味を伝えて、人を育てることもできなくなるとも考えています。

 売り上げはセレクトの力と、お客様の信用、信頼の現れだと思います。自分たちの服が最終的にどう扱われるか。5年、10年経っても当店の服は断捨離されず、大事にされたい。「ディアナガーデンで買った服は良い。また買いに行こう」と思われることが私たちの使命と思っています。

 私たちは「今年はこれ」という提案はしません。顧客の購買した服の資料はあります。年が変われば前年に買っていただいた服に合わせられるものが提案できる。だから商売が怖くない。多少の売れ残りが出てもセールをせず、お客様個人に合わせたコーディネートをした3万~10万円の福袋として安く還元しています。

 私たちは絶えず服の勉強をしています。メーカーも本気で取り組んでいただけるところとしか付き合いません。また扱うブランドはでき得る限り直接デザイナーにヒアリングをします。どういう考えで服を作り、どのような着方、合わせ方が良いのかを聞き、それをお客様に伝えることも我々の仕事だからです。デザイナーと話ができないインポートブランドなどは、デザイナーの考えを知り尽くした営業の方から聞き取ります。「売れそう」では仕入れません。トレンドではなく服に対する考えだとか思想を伝えるのが目的だからです。ヒアリングを尽くして発注した半年後に、私たちはその商品が入荷されるのを待っているのです。

 半端なオーダーはしません。真剣だからこそ、強気な仕入れをができるのです。売れ残っても腹は立ちません。それは値打ちのあるものを提供しようとした結果だからです。

 コロナの影響で売り上げが下がることも考えています。そうなっても以前の売り上げに無理に戻そうとせず、原点である良いものを仕入れ、良さを伝え、コーディネートを提案して満足してもらうことに徹すれば、それほど売り上げが落ちるとも思っていません。

スタッフの石原さん(右)は欠かせない存在。保田オーナーとともに来店客を元気にする

個店だからこそきちんと伝える

 今後の心配は秋物の入荷です。特に欧州は生産が止まっています。メーカーと密に連絡を取りながら、入荷情報には気を配っておきたいと思います。そうした状況ですが今、欧州ブランドのメーカーに香るマスクの製作をお願いしています。このメーカーは香る素材で服を作っており、当店でも販売しています。マスクが単に感染防止に必要で品不足だからというのではなく、良い素材で感動を与える商品になると思い、話をを持ちかけているのです。

 コロナ以前から除菌効果のあるオイルに火をともすフレグランスランプも扱っています。香りは癒やしや安心をもたらします。出かけるための香水と違い、香るランプは〝ステイホーム〟で楽しめ、感動も与えます。市場に少ないことも魅力で、こうしたものを見つけるのもバイヤーの使命です。香水だと種類やブランドが多く専門店もあり、当店で選ぶ必要はありません。

 ニットやカシミヤなどのコートの毛並みを整えるブラッシングも受け付けています。ブラッシングすれば質が高まる天然素材の特徴も伝えています。そうしたことも専門店の務めだと思っています。靴のケアも受け付けています。購入してもらった服や靴のケアをすれば、長く愛用できることを伝えられる。買っていただいたものの価値をわかってもらいたいのです。服を扱う者として、売り上げを伸ばすことだけでは寂しい気がします。個店だからこそ、服のことをきちんと伝えることが優先されるべきだと思っています。良い素材の服をきちんと売り続けていれば、売り上げは後から付いてくるものと思っています。

「ネットショップでは得られない満足が路面店にはある」と保田オーナー

(繊研新聞本紙20年5月1日付)

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