《名店オーナーが見据えるコロナvsファッション消費》エスティーカンパニー環敏夫社長

2020/06/13 06:30 更新


環敏夫社長

 新型コロナウイルス感染拡大の影響は日本全国に及び、ファッション販売事業者全体で厳しいかじ取りを迫られている。たとえ終息しても、これまでのファッション消費は転調する可能性も高い。長らく地元密着・路面店を経営してきた有力ファッション個店にとっても、コロナ禍は未曽有の体験となっている。その中で、経験豊富なオーナーはコロナウイルスショックをどうとらえ、今を乗り切ろうとしているのか。さらに今後のファッション消費、自店顧客はどう変化していきそうかを、時間の許す限り語ってもらった。

 1回目は群馬・桐生を拠点に40年以上、国内新進デザイナーの取り扱いと販売力の高さで知られるエスティーカンパニーの環敏夫社長。地球レベルでビジネスのあり様を変える段階とし、「人の絆」で結ばれ、「明るい未来」の創造が問われると話す。

(疋田優)

欲張ってきたこれまでを見直す段階

 41年間、群馬の桐生・高崎エリアで服屋をやってきて、色んな難局を体験しましたが、このコロナウイルス禍はこれまでの災害や不況とは全く違った性質です。全世界的な課題として「未来を考えなさい」という天からの声だと思います。特に多くの産業・企業が欲張ってきた生産・販売活動の見直しですね。ファッション産業もこれまで欲張りすぎましたよ。今は調整と考えて「50%で我慢しなさい」、来月も続くかもしれないけれど「もっとちょうだい」は今はダメ、ということだと受け止めています。

 実は今春は非常に販売が好調でした。2月は桐生店、高崎オーパ店、販売代行のマーガレットハウエル佐野アウトレット店合計の売り上げは前年同月比約15%の伸び。3月も前半は良く、後半にコロナの影響で失速したものの3%増。ただ4月第1週には客足がぐんと落ちました。

 こうした状況もあって、私自身コロナウイルス感染拡大にかなり恐れを抱いていたんです。でも妻から「ここからが、あなたの出番です」と言われ、すぐに平常心を取り戻しました。すでに朝礼で自分が発言するのをやめていたのですが、次の朝、不安に感じる店舗スタッフ全員に朝礼で「動揺するな。大丈夫、絶対乗り切る」と宣言しました。4月は約30%減で推移し、今では佐野店、高崎店が休業してより厳しくはなっていますが、これは誰のせいでもないし、ただただ耐え時です。

 地方は、コロナでなくても、いつも通りに人がいない。都内は閑散状態となってびっくりなんでしょうが、人がいない状態で商売をやってきているから、我々はしぶといですよ。家賃負担などの観点から東京一極集中が見直され、地方の時代が来そうな予感もします。次の一手を考えるタイミングでもありますが、やり方だけは間違えてはいけない。今まで欲張って、作り過ぎ、売り過ぎてきたことを見直して、「未来を作る」方向にいかないと。それが地球レベルで試されている。もっともっと勘を働かせていきますよ。

焦らずにいられる状況を自ら作る

 こういう思いでいられるのは、やはり2年前に作った桐生店のおかげ。桐生店は「地方から本気でファッションマーケットを豊かに変えていく」思いで、以前和菓子屋だった2棟をリニューアルしました。2棟を階段でつないで、各部屋の延べ床面積は636平方メートル。ガラス張りの開放感で、2階にはカフェスペースを設け、イベントも活発に行える。

 この店を作って以降、「これまで自分らを支えてくれたファッション販売で恩返しをしたい」気持ちが強まっていますし、さらに「明るい未来」を想像できるようになっています。実際に桐生店にわざわざ県外から来る新規客が増えていますし、リノベーションした建物を視察に建築関係者も来るようになった。取引ブランドの「コズミックワンダー」「ミュラーオブヨシオクボ」「セッション」「ファセッタズム」といったブランドのデザイナーみんなが店を助けてくれ、売り場を作ってくれる。以前の桐生駅近くの小型路面店「ペニーレイン」のままだったら、こんな心境になれずに、焦っていたでしょうね。

 直近では資金繰りでも、地元の信用金庫から「バックアップしますから安心を」と電話が来たほどです。店が元気に見えるのでしょうね。桐生市長や銀行関係者も高崎オーパ出店時や、19年秋の渋谷パルコオープン時に出した期間店に来訪いただきました。挑戦と種まきも見てくれていました。資金面は心配することがなくなったので、あとは「自力で一生懸命売り上げを作っていくしかない」ということ。もちろん思った通りいかないでしょうけれど、努力するしかないです。

エスティーカンパニーの桐生店。白壁で各部屋は中庭に面してガラス張り。庭にはリンゴの木を植えて、人の集まる場となっている

あきらめなければ継続できる

 心配なのは、デザイナーやブランドの経営です。ウチはデザイナーから仕入れする時に、前金を納めたり、支払いも早く済ませたりしていますが、取引ブランドからは電話での相談が多数来ています。人気のブランドでも小売店から返品をされたり、オーダーをキャンセルされている。小さくて資金力のないデザイナーはこんな状態だと、なおさらきつい。さらに、ここにきてネット販売で過剰に値引きされて、ブランド価値を棄損する状況も多く見受けられ、とても危機感を覚えます。

 エスティーカンパニーではデザイナーから「デザイン料を買う」姿勢でこれまでやってきましたし、プロパー消化率も90%以上。今まで廃棄した商品はゼロです。そうした観点からいってブランド価値棄損は行うべきでなく、業界全体にマイナスなことです。ウチでは一部ブランドの春夏物を追加オーダーしてプロパーで販売していますが、全ての商品を引き受けるのは難しい。特に真面目に頑張っているブランドが大変で、私にはその苦悩を聞いてあげるしかできないのが辛いですね。

 若いデザイナーや個店オーナーは本当に大変な環境だと思いますが、オーナー自身が希望を持って、経営をあきらめずに踏ん張って、この難局を何とか乗り越えてもらいたいです。当社もバブル崩壊、リーマンショックなど不況を味わってきましたが、一番苦しかったのは20年前、メンズを強化して失敗し、2億円もの赤字を出すという経営危機でした。この時に私が運営をあきらめていたなら倒産していたでしょう。でも、あきらめたりはしなかった。「社長がやる気があるなら大丈夫」と信頼してくれて、取引3社が支払いを猶予してくれたり支援してくれました。私は自家用車などを処分して、すっからかんになりましたけど、ここであきらめないことです。

桐生店2階のカフェスペース。ガラス越しには別館のファッション売り場と連結

これまでを当たり前ととらえない

 次の秋冬物オーダーは、これまでとさほど変わらない数量で発注しています。フランスの「ベースレンジ」からはオーダー数を見て、すぐに電話が来ましたよ、「間違ってない?」って。裏を返せば、他店の発注が大きく減っているのでしょうね。

 ただ、今までと同じことをしていてはダメな時代になりますね。いま都会も地方も在宅勤務が増えて、車も服も買わなくてよい、買う気もない。ECで売り上げが作れるといっても、日々のEC売り上げは鈍くて、店舗を補えるほどではありません。当社のEC販路は直営だけで、「ハイク」などを販売した日は100万円単位で売れますが、コロナが広がって以降は「買いたい気持ち」が低いまま。外出制限が収まれば、一定回復するのでしょうが、これまで通りとはいかないと思う。「お客が店に来る、買っていただけるのは当たり前ではない」ととらえ直して、焦らずに落ち着いて、お客のためのサービスをしていくことが大切になるでしょう。

 従業員への働き方改革も大事になります。これをやらないと、服屋は働き手から選ばれない業種になってしまい、生き残れないですよ。ウチではサービス残業をやめさせていますし、しっかり残業代を払うようにしました。ハラスメントなどは当然あってはいけない。こうした変革を含めて体力を使い果たす企業も出てくるでしょうが、とにかく「いいビジネス環境を自ら作り出すこと」。人の絆で未来が作れるはずです。

「落ち着いて、お客のためのサービスをしていくことが大切に」

(繊研新聞本紙20年4月30日付)

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