危険水域、染色加工業㊤姿消す

2016/05/04 06:40 更新


アパレル生産に影響


 「繊維産業のキーインダストリー」といわれた国内の染色加工業が苦境に立たされている。産地の空洞化の加速で事業者数は年々減少し、最近の円安もコストアップに拍車をかけ、ダメージの方が大きい。染料・薬剤の入手難で「色が染められない」事態も起こっている。しかし、アパレル業界でサプライチェーン全体の課題と認識されているとはいえない。染色業のこれ以上の縮小は国内アパレルにも大きな影響を及ぼす。


染められない事態

 経済産業省の統計によると、92年に国内で約7500カ所あった染色整理の事業所数は、12年に半分以下の3000近くまで減少した。20年間で事業所数・製造品出荷額とも右肩下がり。特に08年のリーマンショックが追い打ちをかけ、今も倒産・廃業に歯止めはかかっていない。

 厳しい状況は合繊長繊維や天然繊維など産地の別を問わず、名門といわれた有力企業も少なからず消えた。プリント産地の京都は、かつて組合員が120社超だったが、22社に減少した。

 大きな要因は、アパレル生産におけるサプライチェーンの構造変化だ。以前は海外で織布や縫製した商品でも、〝顔〟となる生地の染色仕上げは国内で行うケースが少なくなかった。しかし、11、12年にピークとなった円高で、原料から縫製までの海外一貫調達の流れが一気に進み、円安に転じた現在も国内回帰はほとんど見られない。

 エネルギー多消費型の染色加工業では原燃料コストの動向も大きく左右する。燃料価格は落ち着きを取り戻したが、染料・薬剤価格は高止まりし、先行きも懸念される。中間体を製造する中国で環境規制が強まり、供給がタイト化、価格上昇に加え、調達困難もある。ある染工場は、「以前よりも入手できる染料の種類が減っており、染められない色も出ている」と話す。

 染色業が直面する課題は、アパレル業界全体につながるが、これが共有されているとは言いがたい。アパレルから染工場への発注ロットは年々小さくなり、些細な色ぶれも染め直しを要求される。しかも原燃料が上がってもコスト要求は厳しいまま。体力のない染工場はますます脱落していく。メード・イン・ジャパンが注目される一方で、皮肉にも真逆の現象が生産現場で進みつつある。


海外移転のリスク

 国内で染められないなら海外に移行すればよいのか。ことはそう単純ではない。海外では常に為替の変動にビジネスが左右され、人件費の上昇、政情不安など様々なリスクが存在する。

 そもそも、ロットが小さく、品質要求の厳しい日本向けは敬遠されがち。FTA(自由貿易協定)やTPP(環太平洋経済連携協定)など通商の枠組みが変われば、ロットの大きい欧米向けにあっという間に取って代わられる事態も想定される。

 これに対し、国内染工場は高い技術や品質を持っているだけでなく、小ロット・QR対応など、国内アパレルにとってなくてはならないサービス機能も持つ。現在、世界的に染色加工に関わる環境規制が強まっており、この側面からも国内染工場の重要性は高まっている。

商品の顔になる染色加工だが、苦境に立たされている

(繊研 2015/12/25 日付 19382 号 1 面)



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事