家族と記憶と奥深き想い(宇佐美浩子)

2018/08/03 15:00 更新


昨年の夏にもご紹介した(女子力アップの夏!2017、毎年恒例となっている日本の若手女性科学者に贈る「ロレアルーユネスコ女性科学者 日本奨励賞」。リケジョたちにとって、また私たち働く女子たちにとっても、励みになるイベントの一つではないかと思っている。

13回目となった今回も、その研究内容が興味深く、とりわけ心魅かれたのが、京都大学大学院医学研究科で法医遺伝学を研究されている森本千恵さんの『「またいとこ」までわかる血縁鑑定法の開発』

昨今の心痛む大規模災害をはじめ、さまざまなケースにおける被害者の身元確認など、広範囲への応用が期待されるというその内容は、遺伝情報となるDNA配列のわずかな違いを17万カ所以上調べることで、兄弟、いとこ、またいとなどの関係を高い精度で判定できる方法なのだそう。ビックリすると同時に、今後の展開に目が離せない。


そこで8月最初の「CINEMATIC JOURNEY」は「家族と記憶と奥深き想い」をテーマに設け、まずは個人的主観として夏のイメージが色濃い国!?

華麗(=curry)なるインドの旅『英国総督 最後の家』へご招待


このところチャーチルを主人公にした作品、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』にはじまり、間もなく公開になる『チャーチル ノルマンディーの決断』へと続く。

そうした中、わずか数年後の時代設定、かつまた

“歴史は勝者によって記される”

というチャーチルの言葉で幕をあけるのが『英国総督 最後の家』だ。

グリンダ・チャーダ監督自身のファミリー・ヒストリーが重なっていると言われる本作は、1947年8月、インド独立までの半年間をドラマチックに描いている。

主人公はもちろん新総督に任命されたマウントバッテン卿。そして、夫以上にインドの人日の平安を願う妻も加わり、歴史物語に人間味が増す。さらに新総督のもとで秘書として働くインド人青年ジートと、彼が思いを寄せる総督令嬢の世話係に任命されたアーリアとの運命の再会と行方など、さまざまな物語が交差し奥深さを増す。


ところで、1947年3月から8月までという特定の時代を忠実に再現する際、衣装デザイナーのキース・マッデンは主人公であるマウントバッテン一家と同様に、時代に即した使用人たちの制服を調達する必要があったという。

だがそこに幸運の女神のほほ笑んだ☆

それは、本物の総督の家を訪れ、監督とスタッフが厨房に入り、現在のスタッフに会った時のこと。

私の父、祖父、曽祖父全員が、イギリス統治時代にここで働いていました。記章だけ、イギリスのものから“ティーン・ムルティ”(インドの3匹のライオン)に変わりましたが、私が着ているのは、当時と同じ制服です” (本作資料より)

というわけで衣装デザイナーは無事、大統領官邸のテーラーで使用人役の衣装を調達することができたのだ。

『英国総督 最後の家』

8月11日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

配給:キノフィルムズ

©PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016



ここでミラクルラッキーなデザイナー、キース・マッデンの更なる幸運がここ日本でつづくことになった。というのも、前述の作品の1日前、8月10日より連日、彼が手掛けた作品が公開になるからだ。

「家族と記憶と奥深き想い」がテーマの8月の「CINEMATIC JOURNEY」。次なる目的地はイギリスの「チェジル・ビーチ」へ


今世紀の最も有名なイギリス人作家の一人イアン・マキューアンが、2007年に発表した小説『On Chesil Beach』を自ら脚本も担当し、完成した『追想』。ヒロインを演じるシアーシャ・ローナンとは『つぐない』に続き、2作目のマッチングとなる。

舞台はイギリスのポップ・カルチャー、スウィンギング・ロンドンが本格的始動前の1962年、夏。

偶然の出会いから、家族にまつわる問題などを乗り越え、若きバイオリニストのフローレンスと歴史学者を目指すエドワードが無事ゴールイン。ところがハネムーン先のチェジル・ビーチのホテルで起きた、忘れがたい記憶が引き金となり、2人が紡ぐはずの未来は思わぬ方向へと向かうこととなるラブストーリー。


©Keith Madden

ここで再び、衣装デザイナーのマッデンのコメントが興味深い。

“1960年代の始まりはファッション界にもこの物語にも重要な時代だった。10代が大衆文化の中心になる時代の直前であり、ザ・ビートルズが大人気になる前でもあった。(中略)つまり保守的なファッションだった” (本作資料より)

また色にまつわるコメントも同様に↓↓

“あの時代のドレスの色はかなり派手で美しかった。私にとってはまさに60年代の色だし、曇った時のことも考慮し、ドレスの色で青空を表現したかった” (本作資料より)

ちなみに8月4日~8月20日まで、TOHOシネマズ シャンテにて劇中で使用した衣装を展示中!

作品鑑賞前後にご覧のほど!


『追想』

8月10日よりよりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES

©British Broadcasting Corporation/ Number 9 Films (Chesil) Limited 2017


「家族と記憶と奥深き想い」をテーマに、ファッションにフォーカスを当てた8月最初の「CINEMATIC JOURNEY」。ゴールはスポーツウエア人気の今だからこそ、さまざまな記憶と、家族の思いが交差する『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』


テニス好きであろうとなかろうと、作品タイトルのボルグとマッケンローという名前同様に、「FILA」と「SERGIO TACCHINI」というブランド名をご存じの方も多いと思う。何れもイタリア生まれのスポーツライフスタイルのブランドであり、彼ら二人のプレイヤーと関係が深い。

まず「FUN FEEL LIFE」というコピーに表現されている通り、日々の生活の中で楽しむスポーツがブランドの特徴というFILA。

1911年にフィラ兄弟によりニット素材工場として誕生し、70年代にコットンリブ素材の開発と共にスポーツウエアがスタート。またスポーツメーカー業界では初となるプロの選手とのスポンサー契約として、ビヨン・ボルグとのマッチングで話題を呼んだそう。

一方のSERGIO TACCHINIは1966年にブランド名同様のイタリアのテニスチャンピオンが創業。エレガントでカラフルなテニスウエアを発表し、ジョン・マッケンローもその愛用者の一人だった。

というわけで、スクリーン上には当時のそんな香が立ち込める衣装と共に、展開するストーリー。

もちろんテニスへの熱き情熱と、奥深き想い。

家族との関係が彼らそれぞれに与えた影響。

また何よりも二人の間に芽生える感情の変遷が、忘れ得ぬ記憶として残るだろう。


『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』

©AB Svensk Filmindustri 2017




HIROKO USAMI

東京人。音楽、アート&シネマ、ファッション好きな少女時代を経て、FMラジオ(J-waveほか)番組制作で長年の経験を積む。同時に書籍や雑誌の企画編集や外資系航空会社webでの連載、有名メゾンや各種イベント関連の業務にも携わる。また「senken h」創刊時からスタートした繊研新聞とその関連メディアでのコラボは、現在もライフスタイル系記事を中心に熱烈執筆活動中!



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