現在、全国順次公開中のシネマ「Ryuichi Sakamoto: CODA」。既にご覧になられた方も多々おいでのことと思う。
そのタイトルにある通り、世界的に著名な音楽家「坂本龍一の音楽と思索の旅を捉えた」初の劇場版長編ドキュメンタリーであり、またスティーブン・ノムラ・シブル監督にとっては劇場版映画のデビュー作となる。
“見て見ぬふりをするのは僕にはできない”(劇中より、坂本の言葉)
東日本大震災以降の坂本の活動の変化に興味を抱いたという監督の熱意から実現した本作は、2012年から5年間にわたる長期密着取材(病による休息期などもあり…)と、貴重なアーカイブやプライベート映像により構成され、坂本に「全てをさらけ出した」と言わしめた内容が、観る者の琴線にも触れること、確実ではなかろうか。
こと私に限って申すのなら、主人公となる人物を様々な角度から見つめ、そして作品へと昇華させる監督の眼差しの味わい深さに、心がなびかれてしまう。
おそらくシブル監督のそうした眼差しが、坂本の心をもギュッとつかんだのだろう、と勝手に解釈している。
またラジオ番組制作の一環で、世界の波の音を録音するとう業務を経験したことのある私としては、「持続する音、消えない音への憧れ…」と語り、自然の音を集める教授(=坂本の通称をあえて…)の姿に、深い感銘を受けた。
角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開中。
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というわけで今回の「CINEMATIC JOURNEY」は「熱き思いを持つ者に宿る光」をテーマに、まずは日本の偉大なる音楽家から出発!次いでフランスの文豪モーパッサンの名作『女の一生』へと向かう予定。なのですが、その前に少しばかり前述の坂本同様、熱き魂の男に出会う「日本におけるイタリア?」へ寄り道を…
2015年、「地球に食料を、生命にエネルギーを」というテーマで開催されたミラノ国際博覧会。その関連記事として今春、イタリア料理界の巨匠、マッシモ・ボットゥーラにスポット当て、ご紹介したことがある。
【関連記事】極める人はココが違う(宇佐美浩子)
その博覧会における成果を元に、世界主要国で行われている「世界イタリア料理週間」。第2回目(11月20~26日)の記者会見に登壇された、「日本イタリア料理協会」会長の落合務シェフもまた、情熱あふれる生き様に魅了される一人だ。
ちなみに同協会は1988年、現会長をはじめ総勢7人のイタリア料理のシェフにより設立。今では、「日本はイタリア人的シェフの世界1の国」とまで言わしめるほど、技も人数も成長した。記者会見時のジョルジョ・スタラーチェ駐日イタリア大使の言葉を借りるなら;
「日本全国どこへ行っても私が歓迎されているかのように(笑)、イタリアの国旗(=イタリア・レストラン)を目にします…」
ともあれ、約40年にわたり日々精進を重ねてきた日本におけるイタリア料理界の巨匠、落合務シェフの深みのある言葉をぜひシェアさせていただきたい↓
“「苦労」はやがて、「思い出」へと変換される”
それではこのあたりで「熱き思いを持つ者に宿る光」をテーマに巡る「CINEMATIC JOURNEY」のゴール『女の一生』へ✈
実は私も本作を拝見し、初めて気づいたのだが、原書のタイトルと日本語タイトルの違いだ。
フランス語力の無い私が申すのも恥ずかしいのだが、「une vie」という表現に、「女」が見当たらない!
どうやらコトの経緯は、フランス語から英語に翻訳される際に「女」という言葉が付け加えられたというくだりを、本作の資料から知ることとなった。
つまり原作者であるギィ・ド・モーパッサンは、「ある人生」の核となる部分に焦点を当て、読者が各々イメージを膨らませ、小説を味わっていただきたいと思われたのかなぁと推測する。
それはまた小説の副題「ささやかな真実」にも、隠し味的意味合いが込められているのだろう。
ちなみに彼は本作完成までに実に7年を要したのだそう。
そんな予備知識を本作鑑賞後に得た私だが、原作を読んでいようとなかろうと、スクリーンに映し出されるフランス、ノルマンディー地方の美しい映像と、あたかも19世紀へとタイムスリップしたかのような気分に浸れる衣装や舞台演出などと相まって、主人公ジャンヌ(ジュディット・シュムラ)の約30年にわたる人生の変遷(結婚生活、出産、子育てなど)を共に歩み、喜怒哀楽を分かち合うのではなかろうか。
さてここで、スクリーンに時代の温もりを添える衣裳についてリサーチしてみると、「やっぱりね!」と納得。なぜなら『アメリ』、『イヴ・サンローラン』、『ジャッキー』ほか、数々の話題作の衣裳を手掛けているコスチュームデザイナー、マデリーン・フォンテーヌが担当しているから。
本作に関する細かな資料は、残念ながら手にしていないのだが、セザール賞衣裳デザイン賞にノミネートされたほどの内容からして、おそらく時代背景や服飾デザインについて、かなり掘り下げてリサーチを重ねた末、完成したに違いない。
その多くを身にまとい、17歳から40代後半までのヒロインを特殊メイク無しで演じきったのは、歌手としても活躍するジュディット・シュムラ。
「演じるのではなく、実際に若くなったり年寄りになったりする、体もエネルギーも…」
と驚きを隠せない監督。彼女は演じるというよりはむしろ、音楽を奏でるかのごとく、役と一体化していたのだろう!?
最後に、小説でも有名な一節をここに分かち合いたく…
“人生って、それほどいいものでも、悪いものでもありませんね”
『女の一生』
12月9日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開
©TS PRODUCTIONS (PHOTO MICHAEL CROTTO)-AFFICHE NUITDECHINE
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中