長年テレビ業界でアクティブにご活躍され、残念ながら昨夏急逝された小口女史。
彼女との出会いは、私がラジオウーマンとして経験を積んでいた頃、国内外のさまざまなコレクション取材の場であった。
ともに放送業界の女性という点に親近感を抱いて下さったように思う。
その小口女史が制作された番組の中でも、限りなくラスト&ベストに数えられるのがコチラ。
「食」がテーマのミラノ万博において、余って廃棄されてしまう食材を使い、おいしく栄養のある料理を作るプロジェクト「Food for Soul」の創設者で、世界1(「The World’s 50 Best Restaurants Awards 2016」) の座に輝くイタリア料理界の巨匠、マッシモ・ボットゥーラが登場した番組だ。
まるでドキュメンタリー映画を観ているかのような映像とストーリーに、深い感動を覚えたのを今なお忘れない。
そんな氏がこの3月に来日し、イタリアサルーミを使用したクッキングショーを開催した。幸いにも出席する機会に恵まれた私は、本人を目の当たりにし、イタリア人ならではのジェスチャーたっぷりの熱く哲学的な語り口に、思わず引き込まれてしまった。
さまざまな心に響く言葉の中から、個人的ベスト3をここにシェアしたい。
☑子供のまなざしで仕事を見つめる。
☑過去の文化、文明を現代(=私たち)の目でとらえ、将来へとつなげる。
☑いくつになっても成長していくことを忘れてはいけない!
というわけで、新しいスタートを切った方も多い4月最初のCINEMATIC JOURNEYは、各界の巨匠と呼ばれる方々が登場する作品から学ぶ!
「極める人はココが違う✺」
をテーマに、いま注目すべきドキュメンタリー作品をピックアップしてみた!
昨秋、正式発表されたニューヨークのランドマークの一つ、メトロポリタン美術館で開催される特別展「Rei Kawakubo/Comme des Garcons」(5月4日~9月4日)と、本展オープニングを前に多くのセレブリティが集うメットガラ(5月1日)。
存命デザイナーでは二人目、かつ日本が誇るデザイナー川久保玲ということもあり、日本国内での関心がより一層、高まりそうな予感!
折しも映画『メットガラ ドレスをまとった美術館』の日本公開も重なり、まさに「CINEMATIC JOURNEY」心を誘われるに違いない。
ということで、本作の話題に移る前に、まずはテーマになっている「メットガラ」についての予習から――;
「ファッション界のアカデミー賞」なる呼び名もついたこの華麗なるイベントは、1946年にスタートしたそうで、95年からはUS版「VOGUE」の編集長として有名なアナ・ウィンターが主催しているとのことだ。(新作「オーシャンズ8(原題)」関連情報による)
ちなみに彼女は当館の理事でもあり、服飾部門の活動資金調達という目的のため、多大なる貢献をしているわけだ。
高額な参加費同様、毎回席を埋めるゴージャスな顔ぶれは、彼女ならではのビジネスセンスと人脈が功を奏していることは、言うまでもない。
さて、どんなビッグイベントも同じだが、とりわけ本作の主役的存在である大規模展(2015年に開催された「鏡の中の中国(China:Through The looking Glass)となると、開催前の舞台裏は想像を絶する。
試写室同様、しばしば国内外の美術館など(繊研新聞「とっておきギャラリー/ミュージアム」でも時折執筆)へ出向くことの多い私の職務柄故、なおさら痛感してしまう。
そして…
“ファッションは芸術の一つである”
という当館服飾部門の主席キュレーター、アンドリュー・ボルトンが掲げたメッセージに、大御所からの異論が飛び交う中、苦悩しつつもアナと共にゴールに向け挑み続ける雄姿に、思わず声援を送りたくなってしまうのでは!?
4月15日(土)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開!
©2016 MB Productions, LLC
ここで少し、本作公開に合わせて行われるコラボイベントの話題を。
H.P.FRANCEでは、個性豊かな8名のクリエーターによる、映画とリンクしたこだわりの限定品が各店に登場!
ニヤリとしたくなる似顔絵風の「Marianne Batlle」のブローチや、アーティスティックな「JAMIN PUECH」のパーティバッグなど、ぜひ実物をチェックしてみて!
つづいて向かう先は『パリが愛した写真家/ロベール・ドアノー<永遠の3秒>』。
“あ、この写真!見たことある”
という人、手を挙げて?と言ったら、どれほど多くの人がいるだろう。
もちろん私も挙手する一人だ。まさに往年のハリウッド映画の1シーンを想わせるようなこの1枚に、釘付けになった人も少なくないはず。
そしてこの1枚が引き金となり、ロベール・ドアノーという写真家の作品をもっと見てみたいと思われた方も多いと思う。本作は、そんな方々にも打ってつけの1本だ。
“写真は撮った瞬間にすべて過去になってしまう”
この言葉が示す通り、今この瞬間は常に時間は過ぎていってしまうものだ。
そして前述のCINEMAのキーワードにも似た、“自分は芸術家ではない”と語る氏の揺るがぬ職人気質が、さまざまな日常の瞬間を好奇心たっぷりに写し出している。
そしてまた本作タイトルにも通じる
“1枚が1/100秒だとすると、50年でたったの3秒だなんて、すごいだろ!”
つまり「成功作は300枚程度」と語る氏が遺したネガの数は、35万点にものぼるという。
その貴重なネガが保管されているという、本作監督で孫娘のクレモンティーヌ・ドルディルの母と叔母、娘2人によって創設されたアトリエ・ロベール・ドアノーが、たった3秒ではなく、もっと多くの感動を後世へとバトンタッチしてくれるのだろう。
4月22日(土)より東京都写真美術館ホール、ユーロスペース他全国順次公開
©2016/Day For Productions/ARTE France/INA cAtelier Robert Doisneau
CINEMATIC JOURNEY「極める人はココが違う✺」
いよいよこの旅のゴール『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』へと向かいます。
“忙しすぎて、迷子になっていない??(本作資料より)”
と語るヒロイン、ターシャの言葉に「ドキッ」とした現代人は結構多いはず。
何が良いのか悪いのかは別として、世の中のスピードが次第に「FAST FOOD & FASHION」的になっているのかもしれない。
その一方で注目度がアップしている「SLOW LIFE & FOOD」というライフスタイルもまた、時代の産物といえる。
アメリカを代表する絵本作家として70年のキャリアを誇る彼女の生誕100年記念となる本作は、ゆったりと流れる川のようにどこか懐かしくて愛おしい香りがする。
「70年」という数字だけを切り取ると、短絡的に仕事一筋の女性を想像しがちだが、筋の通った生き方はその類に属するとはいえ、家族を愛し育む中に、自身のスタイルを貫いた女性という表現の方がふさわしい。
とりわけ裁縫好きな彼女が、自身の服ばかりか子供たちの服もみな手作りにこだわった「SLOW FASHION」(勝手に命名)については、さまざまな書籍などにも登場する。
とりわけ、自身が好きなスタイリングは長いワンピースだったようで、生涯パンツスタイルに挑むことは皆無だったそう。その理由は下記からもうかがえる。
“女性が長いスカートを履かなくなったのは、大変な間違い”(「ターシャの言葉 思うとおりに歩めばいいのよ」より引用)。
なぜなら、長いスカートからチラリと見える足首というのがミステリアスな想像力をかきたて、欠点も隠してくれるというのが、持論なのである。どことなく男性目線的なのもまた、ターシャ流「粋」と言えそう。
そして「女らしさは女性の大きな魅力」と語る彼女に、もしも出会っていたなら、きっとお叱りを受けたに違いない。
何しろ「長いスカート?あったかな」とつぶやく、ややパンツスタイルも多くなりつつある筆者だから、、、。
とはいえ、
“人生何があっても、「生きること」を楽しんで。”(本作資料より)
全てはこの一言に集約される。
©2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会
4月15日(土)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他全国公開
HIROKO
USAMI
東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中