ボンジュール、パリ通信員の松井孝予です。
「時の経つのは早い」ですよね、本当に。
でもパリの様子を見ていると、3月中旬から8週間続いた都市封鎖が「遠い昔のこと」のように思えます。
米国やブラジルのコロナ新規感染者数や死亡者の恐ろしい数字に目を背けながら、「そう言えば昔、コロナなんて感染症が大流行したね」「そうそう、ロックダウン辛かったね〜」という空気に包まれているパリ。
ひょっとして、コロナなんて忘れちゃったの?
コロナへ恐怖が夏の開放感になびいて慣れに変わってしまったのか。恐ろしい。
マスク?
歩きながらタバコを吸えないし、アイスクリームも食べられない。ケータイでおしゃべりもできない。とにかく、「口」がないと不便なのよね。
だからマスクしてる暇なんてないの。
でもこれがないとお店に入れないし。
買い物が終わったら、マスクなんてそこらへん捨てちゃうの。
都市封鎖緩和後、コロナを道端に放し飼いするように、マスクをポイ捨てが続出してしまい、罰金135ユーロの罰金令がだされたのですが、いまだにこの無責任な行動は後を絶ちません。
だって警官に見られていない限り、罰金は徴収されないから。
あってないような法律です。
そしてベルリンやシュトゥットガルトほどではありませんが、マスク着用を拒む権利を主張するデモや集会も、マスクなしで開かれています。
マスクやウエットティッシュをトイレに流すケースも多発し、下水が詰まるという環境問題に発展しました。
サステイナブル国民は都市封鎖解除後の現実に遺憾、そうじゃない国民との溝の深まりを何とかしようと行動しているのですが。
ソーシャルディスタンス? 何、それ
スキンシップが日常茶飯事のフランスではソーシャルディスタンスがたった1メートルポッキリ。
他国と比較し異例の短距離です。
都市封鎖下ではがんばって長蛇の列を守っていたものの、今では整列することのできない国民に逆戻り。
カフェ、バー、レストランではスタッフも客もマスク着用の規制を放棄したまま、「あなたと私のディスタンスはゼロ」を謳歌。
増殖するテラス
それではここで6月2日、約11週間ぶりにテラス限定で営業が許可された「カフェ・レストラン開き」を振り返ってみます。
まずはじめに、調査会社大手オピニオンウェイが実施した「都市封鎖中に何をしたいですか」というアンケート結果から。
第1位はショッピング!と思いきや、意外にもたった25%。
仏国民の願望は、「近しい人に会いたい」(73%)、そして「美術館やモニュメントなどの)見学」(49%)、レストラン(45%)と続きます。
これら上位の要素を合体させてみると、近しい人とレストランに行きたい、というひとつの夢となり、それがいよいよ6月2日からテラスで可能となるわけです。
ところが全てのカフェ、レストランがテラスを備えているわけでもはありません。
ニーズにテラスの席数が追いつかないし、飲食業界はテラス有無の施設レベルの不公平是正を訴える。
それに応えるべくパリ市がいきついたソリューションは、路上駐車スペースと歩道の排水溝を「束の間のテラス」として提供することでした。
にも関わらずテラスは、スペースインベーダーのように使用許可範囲を超え歩道を占拠してしまい、パリ中心地は巨大な縁日、はたまたピクニック会場になってしまいました。
おまけに利用客は火のついたままのタバコの吸殻を、狙い撃ちでもするように犬の目の高さに投げてくる。
歩道には割られたビール瓶のガラスの破片がキラキラ輝き、スニーカーのソールはスパイクタイヤになり、犬の肉球は真紅のバラ色に染まる。
進化するテラス
歩道も車道も狭く、二輪車、四輪車の交通量も半端ではない4区、特にマレ界隈の住民たちは、増殖テラスに怒りを爆発(他にも暴走自転車にオートバイ、深夜の酔っ払いグループの罵声とゲロ、キレる要素は後を絶たず…)。
良心的なカフェ、レストランは、使用を許可された路上駐車スペースの有効利用による改善で歩道占拠率低減で、睨み合いのない近所付き合いを試みます。
実際、そうした方が営業効率アップにも繋がるでしょう。
駐車スペースのアスファルトをフローリング仕立てにして有効面積を増やす、パラソルや日除け、熱帯植物や浮き輪でパリをバリのビーチっぽくする。
カフェ、レストランにもアートディレクション力が必要とされる時代となりました。
そしてヴァカンスシーズンに突入
街カフェの人口ビーチでロゼをオーダーするより、本当の海でヴァカンスを過ごしたいと思うのが人情か。
ヴァカンス大国フランスです、夏はコロナに蓋を閉めてさあ出発です!
仏国内では毎週末、パリへの上京組と帰省組(オンライン帰省なんて絶対ムリ)の入替ラッシュ、さらに欧州圏内ではツーリストたちの国境越えが真っ盛り。
ヴァカンスはフランス人にとってひとつの義務であり、カラダだけではなくエスプリのスタミナドリンクだからです。
幸い、肝心の旅行費用もそれほど心配ではありません。
OECDの調べでは上半期の個人所得は、フランスは前年同期比0.3%減。
これは仏政府が給与の80%を保証したことに因ります。
数字だけで見れば減収をほぼ免れた仏国民ですが、国民ひとりあたりの国内総生産(GDP)は6%減。
隣国ドイツは、個人所得1.2%減、GDP2.1%減、イタリアは個人所得1.8減、GDP5.3%減。
そして日本は個人所得0.7%減、GDP0.5%減。
OECD加盟37か国の中で、このふたつの経済指標の格差が最も大きのがフランスです。
再び締める
マスク放棄、ソーシャルディスタンスゼロ、夏の国民大移動_
微生物コロナたちは、フランスって急に居心地よくなったよね、と呟き合っているかもしれません。ひょっとしたら、フランスって最高の住処、と口コミになっているかも。
ワールドメーターズによる7月下旬から3週間の世界のコロナ感染マップを見ると、フランスはフェーズ1の「第1波後退、または微増」(4段階まであり)。
でも忌まわしい秋が予測できる数字が発表されます。
8月7〜9日の3日間のコロナ新規感染者数は5000人、累計で203000人。
死亡率10%超。
これより先、コロナの諮問機関は秋に第2波到来ほぼ確実と政府に警告をだし、感染防止対策の再発令を促しました。
ヴァカンス人口の多い都市ではすでにマスク着用令がだされていたのですが、8月10日からパリ近郊を含む30の地方自治体で、マスク着用地域が適用。
パリの場合、ツーリストゾーン、商業地域、セーヌ右岸全域、左岸の一部、商業施設、飲食店内、そしてこれまで通り公共交通機関でマスク着用が義務付けらました。
これと同じく、ル・マン24時間耐久レースは観客なしで開催されることになり、小中規模のフェスティバルは全てドタキャン。
そして11日、カステックス仏首相がさらなる感染対策の強化拡大を呼びかけ、5000人以上のイベントの開催を10月30日まで禁止すると発表しました。
これを受け2度も延期されたパリマラソンが中止を発表。
9月1日が解禁日だった5000人規模のイベントの禁止延長の措置に対して、秋からプログラムが台無しになると、展示会とスペクタクルの主催者から大反発。
マスク着用などの感染防止対策を徹底させず、夏の大集会を見て見ぬふりをしてきた仏政府の放任主義が強い非難を浴びています。
9月から動き出そうとしていたファッションビジネス界、これでまた先が見えなくなってきたではないですか。
カステックス首相は、コロナ感染防止に対する国民の警戒、規則、連帯を怠る国民が多すぎる、と指摘、現状から目を逸らさずに強い責任感で行動するよう呼びかけます。
今さら_ 遅すぎる。
ここで引合いにだされるのがお隣のイタリア。
都市封鎖解除後、マスク着用と検温を徹底させ、状況に応じた国内外の移動規制。
新規感染者数も死病者も少なくEUで一番の優等生と称され、第2波は免れるとの予測がだされています。
イタリア人のパオロ・ジョルダーノは、著書の『コロナの時代の僕ら』でコロナの騒ぎもいったん過ぎればまた元の生活に戻ってしまうのではないか、と懸念を表していた。
まだこの感染症の出口がみえないうちに、フランス、特に首都パリは緩んでしまった。
都市封鎖中にフランスでもベストセラーになったこの本を、再読するときが早くもきてしまいました。
そして石弘之『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫)は今、必読の名著。
感染症の原因である「人類にとってほぼ唯一の天敵」の微生物を知ることは、決して無駄ではなく、ポスト・コロナの様々な予測数字や、キーパーソンたちの意見を求めるように、これからを考えるヒントになると思うのですが。
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。