【記者の目】地方・郊外百貨店の活性化策 地域生活のプラットフォームを

2020/11/21 06:27 更新


 「地方・郊外百貨店(以下、地方百貨店)は売り上げ、客数とも厳しい」は定説だ。店舗閉鎖が続いており、百貨店の空白県も出始めた。ただ、コロナ下の百貨店売上高の増減率をみると、都心部の百貨店と地方百貨店で逆転現象が起きている。広域から集客していた都心部の売り上げの落ち込みが大きく、足元商圏が頼りの地方店の減収幅が小さい状況が続いている。この現象は、地方百貨店が抱える特性と課題、目指すべき道を、改めて浮き彫りにしているように見える。

(吉田勧=西日本編集部流通担当)

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地方健闘の構図

 都市部ほど売り上げが厳しく、地方百貨店が〝健闘〟していることは、日本百貨店協会の発表データをみると明らかだ。表は、協会が毎月発表している「地区別商品別売上高」の増減率をまとめたもの。20年1月までは、例年通りに「10都市以外」の売上高が「10都市」よりも減収幅が大きいが、2月から逆転している。要因の一つは、インバウンド(訪日外国人)需要が〝消えた〟こと。もう一つは、国内富裕層の購入、観光や通勤客需要が都心部ほど落ち込んでいるためだろう。

 全館営業を再開した6月以降でみると、全館売上高の減少幅の差は10都市と10都市以外では10ポイント以上の開きがある。商品別でみても同様で、低迷が続いている衣料品も10都市以外の方が減少幅は小さい。雑貨、身の回り品、食料品をみても傾向は同じだ。8月の身の回り品は、10都市が22.5%減に対し、10都市以外は2.4%増と伸ばした。「東京・銀座などで買い物をしていた客が都心部を避けて近場である地元で買い物をする傾向が強まっている」(水戸京成百貨店)。大都市や海外で買い物していた富裕層などが来店しているとみている地方百貨店は多い。地区別商品別売上高の推移からは、これらの客層が買い回りしていることがうかがえる。


 もっとも減収が続いていることに変わりはない。また、大手アパレルを中心とする構造改革に伴うブランドの休止・退店の影響は、地方百貨店ほど大きい。退店跡については、フロアMDや業種構成バランスを考える間もなく、催事契約の期間限定店などで「何とか埋めた」という百貨店がほとんど。なかにはアパレル社員を雇用し、返品条件付き買い取りといった取引条件で、ブランドを自社運営する百貨店もある。いつまでも催事契約のツギハギ対応を続けるわけにはいかず、全館の方向性を見定めた改装計画の推進を迫られている状況だ。

 重要なのは、足元商圏客の需要に応えることだろう。コロナ下で来店している都心店で買い物していた富裕層を、高額品でつなぎとめることは難しいかもしれないが、高額品だけで生活しているわけではない。美や健康への関心は、世代や所得にかかわらず高い。著名なNBよりも、〝知る人ぞ知る〝地元産品を求めている人もいる。そんな需要があることを、コロナ下の地方百貨店で聞いた。

 地方百貨店に限らず、百貨店の大きな課題は顧客の高齢化だ。コロナ禍以前から、新規客層の獲得が進んでいないことが売り上げ、入店客数の減少に歯止めがかからない要因だ。客層を広げて、客数を増やす品揃え、施設作りで足元商圏客の利用を増やすことが欠かせない。

地域に根差す

 客数、客層の拡大を狙いに、集客力のある大型テナントや行政施設を導入済み、もしくは導入を検討している地方百貨店は多い。 しかし、「導入した」だけでは、収益改善に結びついても、百貨店が活性化したとは言えない。テナントであっても、相互利用を促進する販促の連携は不可欠だろう。20年春、近鉄百貨店草津店、大丸下関店にオープンした「プラグスマーケット」は、東急ハンズが地方百貨店や地方自治体と協業して運営する業態だ。両店とも百貨店がFC店として運営しており、百貨店と連携した品揃えや販促が可能だ。行政施設も同様で、安定した家賃収入と「販促なしでの集客」が見込めることは魅力だが、来店目的が増えても買い回りがなければ意味はなく、出来る限りの連携が必要だろう。

 市民の力を借りる手もある。鳥取大丸は今春、「やってみたい、をはじめよう」をキャッチフレーズに物販店や飲食店などを期間限定で開設できる〝市民のチャレンジショップ〟スペースと男女共同参画センターで構成する「トットリプレイス」を設けた。市民がにぎわい創出に参画する形で、客数、客層の幅を広げるプロジェクトといえる。物を売るだけの〝ミニ百貨店〟ではなく、「集う・楽しむ・発表する」などの多面的な機能を備えた施設作り、地方創生も担った「地域のプラットフォーム化」が、目指すべき道の一つだと思う。

吉田勧=西日本編集部流通担当

(繊研新聞本紙20年10月19日付)

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