4~5月、専門店各社の売り上げは大きく落ち込み、店舗営業が再開した6月以降、売り上げの回復度合いに差が出ている。新型コロナウイルスの感染者数の増加ペースには地域差があり、店舗が都心に集中する中間価格以上の商品を売る専門店は客足の減少から苦戦する一方、郊外主力の専門店は既存店売上高が前年実績を上回っている。だが、明暗が分かれた背景にあるのは店舗立地の違いだけではなさそうだ。コロナ禍を機に、これからの専門店がリアルでやるべきことは何なのかを探る。
(柏木均之=本社編集部大手SPA、セレクトショップ担当)
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都心店苦戦、郊外店回復
既存店売上高で見ると、特に4月はユニクロが56.5%減と過去最大の落ち込みを記録し、セレクトショップのユナイテッドアローズも62.3%減の大幅な減少となった。5月は店舗の営業再開に踏み切るところが増え、落ち込み幅は縮小した。緊急事態宣言が解除され、ほぼ全店が営業再開した6月は、ユニクロ、しまむら、ワークマンは既存店売上高が前年実績超えとなり、ユナイテッドアローズも1ケタ減と落ち込みは軽微になった。
感染者数が再び増加した7月は都心で商業集積地への人出が減り、セレクトショップなど実店舗の大半が都心部に集中する専門店は、売り上げの落ち込みが8月も続いた。一方、郊外店が主力のしまむらが7月の既存店売上高も伸ばし、都心だけでなく郊外にも多く店のあるユニクロは7、8月ともに増収を維持した。
この間、唯一ワークマンだけが既存店売り上げの増加が続いた。主力の作業着は建設現場での作業中止の影響があったが、一般向けのカジュアル「ワークマンプラス」が売れた。全店に占めるSC内店舗の数はごくわずかで、郊外のほとんどの店は営業し、そこに一般客が来店し続けた。
ワークマンの好調は、全店に占める郊外立地店舗の割合が圧倒的に高く、価格も手ごろなカジュアル衣料の強化をこの間進めてきていたことが要因だ。ユニクロは、都心の路面やSC店が休業した4、5月をECと郊外店でしのぎ、6月の営業再開後は実用衣料の需要を一気に刈り取り、復調した。
一方、都市部に主力店舗が集中する専門店は、「密」を避けるために店頭での集客イベントも打てず、在宅勤務の拡大に加え、7月以降は感染者数増加の影響で客数のさらなる減少にも見舞われた。各社ともEC強化を急ピッチで進めてはいるが、おそらく、それだけでは実店舗の落ち込みをカバーできない。
わざわざ立地ににぎわいを
まだ事例は少ないが、ウィズコロナを前提にリアル店の役割の再定義を図る動きはすでにある。デイトナ・インターナショナルは9月12日に「フリークスストア」古河店を「ザ・キャンプ・フリークスストア」としてリニューアルオープンした。郊外の国道沿いにある同店は広い店舗面積を生かし、オリジナルのウェアや雑貨、家具、飲食なども扱う本店だった。
ただ、86年の創業から30年以上が過ぎ、都心やSC内の店舗が増える中、郊外の「わざわざ立地」の店を魅力あるものに作り替える必要が生じていた。家族や仲間と過ごす時間を楽しむための店として、まず関東初出店の和歌山の人気アウトドアショップ、オレンジを誘致した。
本店自体も野外活動で使える道具や雑貨を増やし、「服を買う」店から「服も、それを着て遊びに行く時の道具もそろう」場所にした。客が参加できるワークショップスペースや入り口前のウッドデッキも作った。大がかりな告知はしなかったが、初日はオープン前に200人以上の行列ができ、レジ客数は700人を超えた。
リニューアル自体は1年以上前から構想していたものだが、オープンのタイミングは、家族や親しい友人と過ごす時間や空間をこれまで以上に大切にするようなった客のニーズと合致し、ワークマンやユニクロ、しまむらなどとは異なるにぎわいを郊外に作り出した。同社は今後、古河本店のリニューアルで得たノウハウを他の郊外立地や都心の店舗にも生かしたいと考えている。
ウィズコロナを生きる生活者の価値観はこれからも変容を続ける。その変化に寄り添い、リアル店の役割や意味を絶え間なく変え続けた店だけが終息後も生き残るだろう。
柏木均之=東京編集部記者
(繊研新聞本紙20年10月5日付)