【記者の目】コロナ禍のレディス専門店の役割 実店舗の意義が改めて問われる

2020/12/12 06:29 更新


 都心商業施設を中心としたレディス専門店では、「GoToトラベル」に10月1日から東京が加わったこともあり、客足が徐々に戻ってきている。一方で消費意欲は十分に回復したとは言い切れず、依然として苦しい状況が続く。そうした中、店頭の販売員は販売スキルの向上に努め、実店舗ならではの人の魅力を改めて問い、最大限に生かす努力をしている。デジタル化が進む中で、これからの実店舗の役割を探る。

(関麻生衣=本社編集部レディス担当)

【関連記事】【記者の目】商社OEM・ODMで進展するデジタル化 “DX元年”の様相

価値観変わり戸惑い

 家の中で過ごす時間が格段に増え、仕事の商談や打ち合わせ、友人や家族との語らいの場もオンライン上に移行した。そうした背景のもと、20~30代のレディスマーケットでは春夏以降、商品トレンドに新たな傾向があった。

 一つは画面越しに映えるブラウスが売れた。ひねりを加えた華やかなデザインや鮮やかな色が「在宅勤務でボトムは楽にしながら、トップは華やかにしたい」という女性の心理をつかんだ。

 もう一方で快適さも多く求められた。アイテムは柔らかく伸縮性のあるスウェットやジャージーのトップ、ドレスなど。今秋、レディス企業が次々とおうち時間に着眼して新たなブランドやラインの販売を始めたのも、コロナ禍で変わる価値観を捉えてのことだ。マッシュスタイルラボは新ブランド「スナイデルホーム」を、ジュンは「ビス」で新ライン「ビサージュ」を立ち上げた。

 コロナ禍での需要が見えたかのように思われたが、定期的に取材するレディス専門店で最近、気になる声があった。複数の店舗からの「客が『何を買いたいかが分からない』と言う」との指摘だ。

 6月は外出自粛の反動で店頭がにぎわい、7月は長梅雨と気温の低下が影響して盛り上がりに欠けたが、8月以降は夏の買い足し需要とセールで少なからず消費は動いた。しかし、秋の立ち上がり以降、店頭に来たものの「何が欲しいのか」困っている客が散見されるそうだ。 

 オンオフ兼用や快適な着心地、一枚でも映えるデザインなど求めているものは変わりないが、結局アイテムに悩み、購入に至らない。ある販売員は、何げない会話やスタイリング提案で需要を引き出そうと努めるも、「何で悩んでいるのかが分からず骨が折れる」と話す。

他にはない魅力発揮

 その背景には、恐らく何か特別な理由はなく、客の一時的な気持ちの変化なのではないかと感じる。例えば、先行きが見えないコロナ禍と、新しい生活に順応しなくてはならないことの疲弊感。コロナと共生せざるを得なくなった今、だいぶ外出の自由も緩和され、一時の「服を着て出かける先もない」状況から脱しつつあるが、着飾ることの高揚感が薄れてしまったままなのかもしれない。

 しかし、こういうときだからこそ、販売員の腕の見せどころでもある。ルミネエスト新宿に出店するローズバッド新宿店は「例えば個性的な色柄といったブランドの独自価値や、この商品の何がいいかを接客で伝えることが大事」と考える。

 この間、販売員全員でフリートークの向上に磨きをかけている。こうした店頭での取り組みは売り場の士気を高めることにも一役買っている。

トルソーは来店動機になり、「その服が欲しい」と購買も促進する(写真はローズバッド新宿店)

 来店促進ではインスタライブの配信も強化している。購買意欲を刺激し、実際に服を見たいと思ってもらうきっかけにしている。電話を使った接客もし、店に足を運ばずとも家でECから購入してもらい、ブランド全体の売り上げにつなげる工夫をしている。

 ある店舗取材では「売り上げに伸び悩むが、一人ひとりの客に喜んでもらえるサービスを提供できたり、フリートークが盛り上がって購入につながったり、デジタルにはない良さが実店舗にはある」との声もあった。 

 服へのマインドは人々の暮らしを取り巻く時代の流れや景気、それらに影響される客の心理に密接に関係する。先行きが見えない不安な気持ちが今の冷え込んだ服の消費に表されるように。しかし、服は人々の心に豊かさを与える。目で色彩を楽しみ、素材を肌で感じられる実店舗は重要な役割を担っている。そして、そうした服の魅力やそのブランドの価値をどれだけ伝えられるかは販売員の腕による。実店舗の在り方、販売員の個性や自発性が改めて問われている。

関麻生衣・本社編集部レディス担当

(繊研新聞本紙20年11月2日付)

関連キーワード新型コロナウイルス情報記者の目



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事