コロナ禍のなかで繊維・ファッション業界のデジタル化が加速し、商社OEM・ODM(相手先ブランドによる設計・生産)は〝DX(デジタルトランスフォーメーション)元年〟の様相を呈している。アパレル業界が抱える供給過多、大量在庫などの課題解決に向けて各商社はデジタル技術を活用し、業界のニューノーマルを構築する。
(本社編集部商社担当=北川民夫)
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サステイナブルに
三菱商事ファッションは4月にデジタル事業推進本部を新設、7月にアパレルの製販全体の変革を促す「3D・CGデジタルスキーム」を打ち出した。これはCAD(コンピューターによる設計)を起点に、試作反やサンプル縫製を不要とするスキーム。アパレルのオンラインビジネスに適応する生産手法で、ECではCG画像処理を利用した先行受注が可能になる。大量の生産や在庫、廃棄を回避するサステイナブル(持続可能)な物作りにも貢献する取り組みだ。昨今、アパレル業界の衣料廃棄問題が指摘されるなかにあって「今後さらに、アパレル製品を適時適量で市場に供給することが不可欠になる。これにはデジタルの活用が解決に向けた近道。そうでなければアパレル業界は生き残れない」と断言する。
三井物産アイ・ファッション(MIF)は19年12月に過半出資で設立したデジタルクロージングを通じて「3Dモデリスタ事業」を推進する。
日本では欧米のアパレル業界に比べ3D・CGによるバーチャルサンプルの活用が立ち遅れているのが実情だ。デジタルクロージングは「3D・CGサンプルの普及」を掲げて事業展開する。「国内のアパレル業界で3Dサンプルの実用が進展しないボトルネックは、2Dから3Dへの〝組み上げ〟(縫製指示)を担う3Dモデリスタ不足が決定的」と見る。デジタルクロージングはMIFと企画会社のスタートップ、パターン作製会社のファクトアイズが共同で設立。実物のサンプル作製を、専用ソフト「CLOエンタープライズ」による3Dサンプルに置き換え、リアルサンプルにかかるコストの削減、リードタイムの短縮につなげる。
相次ぎ部門設立
日鉄物産は今年7月に社長直轄組織として「DX推進部」を新設、それに先駆けて繊維事業本部は4月に「繊維DX推進グループ」を立ち上げた。繊維DX推進グループは「生産管理システムの合理化」を掲げ、生産進捗(しんちょく)管理の可視化に向けた施策を促進する。「相手先ごとに異なる、多様な工程フローへの対応が必要な当社にとって納期や品質など生産におけるトラブルや問題を最小化するために欠かせない」と重視する。
伊藤忠商事は7月、繊維カンパニーに繊維デジタル戦略室を新設した。繊維ビジネスにおけるECへの対応など、新たな収益基盤の構築を目指し、部門を超えてデジタル化を推進するため、繊維カンパニー直轄組織として設置。今後は同室を中心に、繊維カンパニーの営業組織やグループ会社のデジタル化を推進する構えだ。
商慣習の壁
これら商社のデジタル化の動きが活発化する一方で、業界のOEM・ODMにおける商慣習がその進展の妨げとなっているケースがある。
ある商社は「3Dサンプルの提案の際に、相手先から『従来の実物サンプルは代金を取らないのに、デジタルは別途料金を取るのか』と言われる」と嘆く。実物サンプルの代金はCMT(縫製加工賃込み価格)に上乗せされる商慣習があるため、デジタルサンプル代金への抵抗があるのだ。また、これらアパレル、小売り業態などの相手先は、将来的な3Dサンプルの活用には興味を示すが「今はコロナ禍による店頭の販売不振もあって、デジタルサンプル分のコスト増を渋るところもある」と言う。また、実物サンプルで触感や風合いなどを確認して、最終的なオーダーの可否を判断したいとする相手先も少なくない。
しかし、各商社とも「OEMビジネスにおけるデジタル活用への関心、引き合いが強いのは確かだ」としており、「大手SPA(製造小売業)を中心にデジタル化へのニーズが加速度的に高まることが想定できる」とみている。
業界のDXに向けた取り組みのブレークポイントは近い将来訪れることになる。その際の必須条件となるのが3Dモデリスタの人材育成であることは明らかだ。また、サンプルに対する適正な代金を支払う商慣習の変化も必要だ。デジタル技術によって極力無駄な生産を抑え、大量廃棄を回避するサステイナブルな業界を実現する〝グリーン・リカバリー〟に向けた変革が求められる。
北川民夫=本社編集部商社担当
(繊研新聞本紙20年10月26日付)