《名店オーナーが見据えるコロナvsファッション消費》アウトバウンド 小林和人オーナー

2020/06/15 06:29 更新


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 東京・吉祥寺を拠点とするアウトバウンドが、新型コロナウイルスの影響による臨時休業をきっかけに、オンラインで新しい魅力を広げた。オーナーの小林和人さんは、作家ものや手仕事の製品を品揃えし、その情緒的価値を伝える空間を大事にしてきた。その延長でデジタルコンテンツを制作、画面を通じてヒトとモノが行き交う場を築いている。

(須田渉美)

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 3月半ばからアウトバウンドで企画展をやっていましたし、お客さんに対応できるように4月6日までは自分ひとりで店番をしていました。代々木上原では日常生活の道具を扱うラウンダバウトを運営していますが、そちらは早めに閉めました。

待ったなしで

 オンラインストアは、かねて定番商品の販売をやりたいと、友人のアドバイスをもとに準備していました。しかし、店内と同じ空気を伝える写真撮影に手間がかかり、中断していたんです。今の状況で店を閉めれば、当然、収入源は断たれます。オンラインをやるか、つぶれるか2択しかないと、待ったなしで急ピッチで取り組みました。昼間はアウトバウンドの店内に差し込む日光で撮影し、夜はストロボ撮影のしやすいラウンダバウトに移動。手探りで開設にこぎつけたのは4月12日でした。

 まずは、アウトバウンドで予定していた企画展から始めました。作家の方とも4月以降に店を開けるのは無理だろうと、オンライン展示会を試みようと話し合いました。常設の販売を行いながら、毎月行っている企画展は当社の買い取りと委託の両方で品揃えしているので、双方にダメージが大きいんです。やってみると、売り上げは予想以上になって、オンラインでもなんとかなることが見えました。

 生活に役立つものは大きな反響があります。例えば、井藤昌志さんの木工の小物入れは、高単価でも例年よりも大きなサイズが売れています。企画展を知らなくても、ネットで探していた人の購入もあって、売り切れも出てきて追加したほどです。とはいっても、実店舗の売り上げで考えたら一部に過ぎないですし、2店の固定費をまかなうには程遠いです。撮影には手間がかかります。同じモデルでも若干の個体差があるので、一つひとつを撮影して登録し、購入者自身に判断してもらうようにしています。

 また、常設の商品ではカート形式のネット販売を好まない作り手の方も、生産背景や製品のこだわりを説明できる状態を伴った形ならと承諾してもらいました。「ミッタン」のパンツ、「マロバヤ」のTシャツは、普段使いのリピーターが多いですし、オンラインでも売れています。ラウンダバウトで扱うアパレル製品の大部分は半年前に発注し、今も納品されています。その流れを急に止めることが出来ないのは、大きな課題です。

25日までは「コズミックワンダー」のオンライン展示会を開催。着やすさ、動きやすさを画面越しに伝える手法に工夫を凝らす

限定された関係

 ライブ配信は、造形作家のオンライン展示会を開く中で、店内のように陳列したときの趣ある雰囲気を出したいと、直感的に取り組みました。写真の展示だけでは物足りない、このまま終わってしまったら後悔するだろうなと。アイデアはあったんです。落ち着いた店の空間やサイトの印象とは異なって、昔ながらのテレビショッピングの乗りで紹介したら面白いだろうなと。まずは30分が限度と考えて、素人ながらもチャレンジしたら「人間との対比でスケール感が分かった」と売れていなかったものも動き出しました。

 連休中には、ステイホーム企画「和人の部屋」と題して、1時間番組を5夜連続で配信することにしました。5日間連続で視聴数を取り続けられるか実験しようと。後半は、リモートの強みを生かし、久々にお会いしたい方にゲスト出演を依頼しました。一人は近所付き合いがあって、昨年徳島に移住したイラストレーターの福田利之さん。うちのお客さんで知っている人は多いですし、どうしてるかなと皆が気になるだろうと。もう一人は、インド関連の書籍の編集者の松岡宏大さん。濃い話を視聴者と共有しながら、店にあるインドの手仕事の商品を紹介する特集を考えました。

 結果、毎回100人前後が視聴してくださって、ゲストが出演していた時は150人近くになり、今後もやっていく価値はあると手応えを感じています。

 ゲストとSNSのフォロワーがうちの店に興味を持ってくれたり、その逆もあったりと、双方向に出会いが広がりました。視聴者のコメントに答えながら感じたのは、世界観を共有してくださる人が集まって、わりと限定された関係性の中でライブ感を楽しんでいることです。写真だけでは伝わらない接客感を出せて、提供できる情報の多さは大きな強みです。うちに限らず、小売店のメディア的な側面は将来的に強くなっていくような気がします。

GW中には、ステイホーム企画「和人の部屋」を5夜連続でライブ配信した

 1カ月店を閉めていると、今後の店の運営のあり方をいろいろ考えさせられます。実店舗では扱いきれなかったものをウェブ上で販売できるし、雑誌やカタログのような編集が可能になるかもしれない。今まで以上に「仕込みの時間」を大事にして、より魅力的な商品の提供に務めたい。

 今までうちのお客さんは、手仕事のものは手に取って確かめたいという方がほとんどでしたが、オンラインの買い物も悪くはないなと、選択肢の一つに考えられるようになったのではないでしょうか。私自身、オンラインで手仕事の製品を販売できると思っていませんでした。実店舗は、目的にたどりつくまでに、その空間にある余計なものが目に入って、認識していなかった興味に気付く面白さがあります。オンラインストアでも、偶然の出会いを生み出せる、余白のある形に出来たらいいなと考えています。

オーナーの小林和人さん

(繊研新聞本紙20年5月19日付)

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