《名店オーナーが見据えるコロナvsファッション消費》ラグラグマーケット 鈴木太郎社長

2020/06/15 06:30 更新


 千葉県柏市でメンズ主力のセレクトショップ「ラグラグマーケット」を運営するスズキインターナショナルは、コロナ禍に新規事業にチャレンジする。「グローバルECサイトで世界の有名ブランドがいつでもどこでも買える時代。海外ブランドを仕入れて売るビジネスモデルが従来通りには通用しなくなる」と鈴木太郎社長は危機感を抱く。新規事業はDtoC(メーカー直販)型のブランドビジネス。アフターコロナを生き抜くためにも新規事業に社運をかける意気込みで臨む。

(大竹清臣)

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インポートに限界

 今回のコロナ禍に関係なく、以前からインポート主力のセレクト業態には限界を感じていました。冬のアウターに偏重したバイイングから気候変動を踏まえ、品揃えやアイテム構成を変更してきました。それでも洋服全般が売れないので現状維持するだけでも大変です。

 コロナ禍の影響が深刻なイタリアのブランドとの取引が多いため、秋物の納品はどうなるのか。ピッティ・イマージネ・ウオモも延期となり、21年春夏のオーダーも難しい状況です。1年間くらいは影響が続くとみており、通常通りの仕入れに戻るのは厳しそうです。数年前からレディスを始めたり、国内の単品専業との取り組みを強めたり、バッグや靴など雑貨の構成比も高めてきました。

 構成比が高いECの売り上げも2~3月は4割減と落ち込みました。ビジネス関連と旅行用バッグなどのオケージョン需要が激減したからでしょう。高額な嗜好(しこう)品が売れず客単価は下がりましたが、ECの注文数は前年の8割を維持しています。ここでしか買えない商品にはチャンスがあると思います。

 感染拡大後も路面店の営業は続けています。安心して買い物をしてもらうため、店内には1組の客しか入れません。3密を防ぐコロナ対策は徹底しています。EC担当のスタッフも交代出勤です。SNSの動画を活用した商品紹介も始めました。スタッフ自らが顧客に語りかけることで少しでもリアル店の温かみを感じてほしいからです。

 コロナ禍によって中長期的にライフスタイルは大きく変わると考えています。ビジネススタイルや消費行動の変化も間違いないでしょう。これまでの大都会偏重から主役の座は入れ替わり、家=自宅(スマートフォン、パソコンなど)が全ての拠点になるはず。テレワークが広まり、巣ごもり生活がスタンダードとなるでしょう。

 通勤ラッシュのストレスから解放されたビジネスマンは自然と楽で心地よい生活を求めるようになりそうです。クールビズが定着したように後戻りはできないでしょう。家族関係も変わり、いつも夫婦が一緒にいるのが当たり前になるかもしれません。今までも、リーマンショックや東日本大震災など災害や経済危機の後に価値観は大きく変わりました。今回はもっと大きな転換期になるはずです。

メンズ主力だが、レディスや雑貨も充実する店内

変わらない良さ

 昨年から準備してきた新規のブランドビジネス事業は荒波の中での船出となりました。そのブランドは以前から取引しており、当店でもファンの多いカジュアルシャツ主力の「スイープ」です。同ブランドを運営してきたフラット(大月勉社長)からブランドを譲り受け、卸型から直販型へリブランディングすることにしました。その背景には、多くのブランドが卸販売からDtoCへシフトしている米国市場の動向もあります。

 作り手がダイレクトに消費者とつながることで、無駄なものを作らず価格メリットも出せるから。ECで人気になってから体感の場であるリアル店を出すというモデルです。ラグラグマーケットも全売り上げの4分の3(約3億円)を占めるECは得意分野であり、新規事業は将来の成長性が見込めると期待しています。

上質な日本製シャツ「スイープ」をリブランディング

 スイープは当店だけで、年間1500枚の販売実績があり、当面5000枚を目標にしています。もちろん、ブランドビジネスが簡単じゃないことは分かっています。私も独立して03年秋からラグラグマーケットを運営する前の大手小売業勤務を含めて約30年間業界にかかわってきましたから。それでも15年以上市場で愛されてきたスイープのポテンシャルにかけてみたいのです。自店では長年トレンドを追求してきただけに、オーセンティックで変わらない良さが特徴の知る人ぞ知るブランドに魅力を感じています。

 リブランディングでは、ニューヨークのセレクトショップ「マダムキラー」の柏原伸一代表に統括マネジャーを担ってもらい、外部のデザイナーも起用します。スタンダードで上質な日本製シャツという軸はぶらさずに、テレワーカーの仕事着にもカジュアルウェアにもなるリラックス感ときちんと感を兼ね備えたブランドになります。ECでもフィット感を体験するのは大事なので、自社サイトもリニューアルし、自宅で試着できるサービスを充実し、男性客が自身のワードローブと合わせられ、奥さんの意見も聞ける仕組みを整えます。直販が基本なので、卸先には別注品のみを販売予定です。将来的には直営店の出店も計画しています。新規事業は単なる個店のPBで終わらせず、会社の事業基盤や体質を変革する足掛かりになればと思っています。

社運をかけて新規事業に挑む鈴木社長

(繊研新聞本紙20年5月18日付)

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