《名店オーナーが見据えるコロナvsファッション消費》リゾラ・ディ・エム 田中悠也社長

2020/06/14 06:28 更新


 岐阜市の婦人服専門店、リゾラ・ディ・エムは繁華街から少し離れた立地にあって、多くの固定客が足を運ぶ。欧州での直接買い付けも含め、ハイグレードで上質、着心地の良い洋服は顧客を魅了してきた。さらに、店頭での接客に加えパーティーや旅行、食事会など、顧客を楽しませようという姿勢に多くの顧客は信頼を寄せる。「お客様同士のご縁を作る」という田中悠也社長。店を通じ、イベントを通じ、顧客の縁が広がっていく。一流の服と、質の高いコミュニケーションに顧客は共感を強める。

(神原勉)

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店を開け見てもらう

 お客様と一緒になって楽しむのが当店のおもてなしです。旅行やパーティー、イベントなどでお客様に楽しんでいただき、お客様同士のご縁をおつなぎしてきました。外出自粛が叫ばれ、「店を開けていることが不謹慎だ」という風潮も広がっています。しかし、こういう時代だからこそ、シャッターを閉めてしまうのではなく、開けておこうと思っています。車で通りすがりに、店のウィンドーに飾ってある服を見て、「わあっすてき」と、思ってもらえることが大切なのです。服を売るとかではなく、きれいな服を見て、着てみたいという気持ちを持っていただきたい。

 3月は5割減、4月に入ってから6割減という状況が続いています。平日は1時間繰り上げて午後6時に閉店しています。土曜日は予約制にしました。来店は1日に1人ほど。受注会で注文した服が仕上がったので取りに来たというお客様もいらっしゃいますが、「店が開いていたから寄ってみた」という方が多いですね。以前は、おしゃべりしに立ち寄って下さって、ついでに服を買われる方が多かったのですが、外出を控えているようで、おしゃべりにもいらっしゃらない。まして服を買うような空気ではないようです。

 今、一番売れているのが、自社のお直しの工房で作っているマスク。たくさんの注文をいただいているのですが、材料の2重ガーゼやゴムが入荷せず、在庫が間もなく底をつきそうで、そうなると製造できません。

 夏物の入荷は現在止めています。欧州で発注したものは滑り込みで間に合ったものは一部、入ってきていますが、むしろ秋冬物が気掛かりです。欧州のロックダウンが解除されるのがいつごろか、生産が始まって、日本に到着し、シーズンに間に合うのか、とても気になります。

リゾラ・ディ・エム

見つめ直す良い機会

 この状況は過去にない厳しいものだと認識しています。創業以来、経験したことのない厳しさで、戦時中以上かもしれません。サン・モトヤマ創業者、茂登山長一郎さんの半生を描いた『舶来屋』を読んだり、自分自身の仕事をもう一度、見直そうとしています。洋服への向き合い方を見直す良い機会かもしれません。

 そう思うようになったのは、顧客のクローゼットに眠っている洋服などを委託販売するリサイクルショップを一昨年、オープンしたことがきっかけです。ほとんどが、まだ1、2回しか着ていない洋服で、中には値札のついたままのドレスもあります。お客様にとって大切な1着。捨てることができず、誰かに着てもらいたいという思いで、リサイクルショップに持ってこられます。処分される服がある一方で、人から人へ引き継がれる服がある。改めて洋服の価値について考えさせられました。ただし、お客様のクローゼットは満杯。これまで「売り過ぎた」のかもしれません。

 この状況はピンチではありますが、業界全体にとって、ビジネスモデルを見直すチャンスととらえることもできます。大量に作り、薄利多売で、売れ残ったらセールする。そんなやり方はおかしいと、何年も前から言われてきましたが、直せなかった。この状況を機に、やり方が見直され、洋服を「希少資源として大切に扱っていこう」と意識が変わればと思っています。

田中悠也社長

(繊研新聞本紙20年5月13日付)

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