【店長に役立つページ】「MDの仕事へ」の疑問にお答えます 向くのは「人を動かせられる人」

2020/08/17 06:28 更新


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 商品政策を担うマーチャンダイザー(MD)は、その仕事の性格から経営にも直結する大事な仕事だ。小売りの現場に身を置く販売員や店長の中には、「いつかは自分も」と言う人もいるだろうが、その仕事の中身は実はよく分からないという向きも多いのでは。そこで今回、セレクトショップの物流倉庫でキャリアをスタートさせ、7年間の販売員生活を経て本部のMDを務めた佐藤正臣さんにMDの仕事について話を聞いた。現役時の経験から「人を使わず、何でも自分でやってしまう店長はMDの仕事に向かない」と言う佐藤さん。その深い意味とは。

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ブレないことの大事さ

Q1.MDの仕事ってそもそもなんですか。

 「マーチャンダイズ」という名詞は商品という意味で、「マーチャンダイジング」というのは商品政策と訳されます。それを担うのがマーチャンダイザーです。一言で言えば、お客様が欲しい「商品」を適切な「タイミング」や「価格」で届ける仕事です。仕事の内容や幅は多少異なりますが、小売業には全てMDがいます。皆さんご存知のニトリにも無印良品にもです。要は、お客様が欲しいものを揃えてあげるということですが、「売れるもの」とイコールではありません。

 自分の店なりブランドのコンセプト、こういう人をターゲットに、こういうスタイル、みたいなことが非常に大事なわけです。「そんなの当たり前じゃん」と思うかもしれませんが、商売をしているとブレてしまうことは普通によくあります。

 売れ行きが鈍い時に、同じフロアの競合店の売れている商品を見つけ、同じような商品を仕入れることはあります。コンセプトが似通っている店なら構わない場合もありますが、そうでない場合はNGです。

 自分がいたセレクトショップは銀座・丸の内のOL御用達のきっちりした商品揃えに特徴がありました。98年ごろにフォークロアのブームがありました。その時のMDはトレンドだからと言う理由で、店が得意でもないそんな商品を揃えてしまったんです。いざ、店に出したら全く売れませんでした。我々のお客さんはそんな商品を求めていなかったんです。当時、販売をしていた自分は「ブランドが不得意なことをやったらこんなに失敗するんだ」と感じたことを覚えています。

 MDの仕事は結果が全て。トレンドが店の得意な品揃えと乖離(かいり)しているから売り上げ予算は低くてもいいとはなりません。だから、今の話のようなブレが起こってしまう。当時のMDも、売り上げを取りに行った結果の間違いだったのです。ブランドやショップの全体売り上げを左右するのがMDの仕事。その結果は経営に直結するから、かじ取りは非常に難しい。だから、わかっていてもブレてしまうことはよく起こるんです。

セミナーも多数こなす佐藤さん

「疑い力」で意思疎通

Q2.たまに売り場に顔を出すMDとはどういうコミュニケーションを取ればいいのでしょうか。

 基本的にはMDには何を言ってもいいです。いずれにせよ判断するのはMDですから。それを踏まえた上で、どんな現場の情報をMDに提供するか。

 例えば、日々ストック整理をしていると色々なことが見えますよね。動いている商品、そうでない商品など、数字を見る前に体感で気付いているはずです。それが数字としてまとまって本部に報告されるわけですから、販売員は一番早く知っている場合も多い。現場に疎いMDが増えていますから、そんなことを伝える。

 レディスの場合は販売期間が短いですから、しょっちゅうレイアウトやVP(ビジュアルプレゼンテーション)の変更をします。人気のものがすぐなくなり、VPをすぐに変えざるを得ないことがあります。本部からは次々指示が来ると思いますが、「本当にそうかな。こっちの方がいいと思うんだけど…」「あれば、もっと売れたはずなのに」と指示そのものを疑うことが大事です。

 組織をギクシャクさせることが目的ではなく、常に可能性を探る営みを継続することで品揃えの精度改善につながると考えるからです。自分は「疑い力」と呼んでいます。疑い力を高めることは店やブランドにとって貴重。そもそも、指示に従うだけの商売って面白くないでしょ。

 売り場運営において大事なのは、常に「目的」と「目標」をはっきり共有しておくこと。売り場の目的は、「よりたくさんのお客様に満足してもらうこと」です。目標というのは「売り上げ」とか「客数」などの数値。この二つを全員が頭の中に入れておくだけでも店舗運営は随分変わるはずです。これをベースに疑うということです。

 前売りが悪くて商品を出せないというのもストレス。こうならないためにはどうするか。そんな話もMDにしてもいいのではないでしょうか。ブランドやショップにはコンセプトがあり、それに従ってハンガーは何本置くとか店頭のSKU(在庫最小管理単位)だとか決まっています。これが何度でも崩れているとしたら、それはMDがおかしいということ。現場の負担も増えるし、良くないです。

「真摯である」は店と同じ

Q3.将来MDになりたいと思っています。必要なスキルや知識って何でしょうか。

 知識より前に心構えが大事。「真摯(しんし)である」ことです。真摯でなければMDになっても恐らく失敗します。誰に対して真摯であるか。お客様や販売員もそうですし、企画や生産管理、もちろん仕入れ先に対してもです。

 MDになると権限が大きくなります。権限が大きくなると傲慢(ごうまん)にもなるし、天狗(てんぐ)になりがち。自分もそうでしたから。自分の考えが絶対と考え、店の言うことに全く耳を貸さずにいると確実に売れなくなる。言うことに耳を傾けてくれないと、仕事とはいえ彼らの販売へのモチベーションは下がってしまいます。単純なことです。

 その上で必要なスキルというのは、実は店で出来ることなんです。店長は一番いいMDになれる環境に身を置いている。とにかく販売の仕事を一生懸命することが一番の近道です。必要なスキルはユニクロと個店では全く違いますし、一概には言えませんが、お客様に買い物をしてもらい、いかに喜んでもらえるか、その数をどれだけ増やせるかを、頭と体をフル回転させて取り組む。そうするとおのずとそのために必要な知識やスキルは身に着けられる。生地の知識がいるな、とか生産背景を知りたいな、とか。お客様をみているときっと色々なにおいを感じるはずです。その環境にいて一生懸命考えることが後に役立つのです。

 とはいえ、お客様との接点以外で得る必要のある知識もあります。販売員であれば粗利益の概念、店長であればPL(損益計算書)の知識は欲しい。簡単な会計学ぐらいは持っていて損のない知識です。例えば、すごい高いブランドのダウンが1日で三つも売った。でも、その商品の仕入原価は高いから店に残る利益はほんの少し。それより粗利益率の高い商品をたくさん売った方が店に残る利益額は大きい、みたいなことです。そのダウンのブランドにも役割がありますからダメと言うことではないですが、どれくらい利益が残るのか、という知識はあった方がいいでしょうね。

 服屋はどうしても売り上げ至上主義なところがあります。しかしそれは会社にとっても、個人にとっても副作用が大きい。売れているのに利益は小さい、にもかかわらず販売員はノルマがあるから無理に売らされる。だから仕事としても嫌われる。さらに利益が薄くなると給料も減る。そんな悪循環を避けるためにも、簡単な会計知識は身に着けておいた方がいい。

MDスキルの大部分は現場仕事を一生懸命こなすことで自然に身につく

◆店長の仕事はMDにつながる

 店長の仕事ってMDにつながるんです。どういうことかといえば、MDは商品の仕入れの話をしているだけでなく、社内だと販売員、企画や生産管理、パタンナー、EC担当者、社外だとたくさんの仕入れ先や生産現場など様々な人と関わるからです。店長に例えると、販売員はもとより、エリアマネジャーや本部との関係作り、シフトやバックヤードの管理など多岐にわたりますよね。様々なところに目配りする必要があるのは、MDと同じ。センスや感覚よりもマネジメント力の方が大事だと考えています。

 他者とのやりとりがとにかく多いので、思いつきだけでは出来ません。彼らとコミュニケーションを取る中で、MDの考え方の全体像を相手に意識してもらうような話し方が求められます。伝わらなかったら意味ないですからね。

 優秀なMDのほとんどはマネジメント力があります。店長も同じです。店でも目標と目的を全員で共有する。極端な言い方をすれば、(販売)仕事をやらない店長がいい店長。販売をするのではなく、してもらう。だから、自分で売ってばかりいる店長はMDには向きません。MDになりたい店長は目先ではなく、全体像を俯瞰(ふかん)する癖をつけた方がいい。

 自分がMDの時も働いていませんでした。月曜日と火曜日に本社に行き、1週間のタスクを企画や生産管理などそれぞれに話し確認を済ませたら、水曜日からは売り場に足を運びます。売り場に行くのはMDにとって非常に大事な仕事です。

 MDの仕事のやり方は販売員の時に学びました。やられて嫌だなということは自分がMDになった時はやめようと思い、メモってましたから。自分が販売員の時の店長は、自らなんでもやる店長でした。マネジメント感覚がない人でしたから、セール前準備でもみんなが遅くなるまで帰れないんです。逆に、働かない店長の場合はすぐに準備も終わる。人をうまく使えるからです。

 ただ、MDにも可愛そうなところがあります。こういった仕事の要諦を社内で教えてくれる人がいない場合が多く、あったにしても我流で的外れな内容でさらに事態を悪化させています。教育にはお金がかかりますが、結果的に早く目標にたどり着けますし、経営にとってもいいと思うんですが、なかなかそうなりません。

 教育しても辞められたら困るとか、低い原価率など〝不都合な真実〟を知られたら困るというケースもあります。人材教育と同時に再現性のある仕組み作りがあれば企業にとってはすごくベネフィットがあるんですけどね。アパレルって感性商売の面もあるので、年齢制限があると思うんです。でも再現性のある仕組みを作っておけば教育を施すことで組織は動かせられる。


 MDは先をどう良くするかを考えなければなりません。売り上げ不振など、起きてしまった結果は変えられないから、先をどうするかを考えた方が建設的です。1カ月タームで数字を追いながら、半期とか通期で数字の全体像を描く。MDの振り返りでは、過去(結果)8・未来(計画)2ぐらいの割合で会議をやっているところが多いようですが、半半ぐらいのバランスでやるべきです。在庫残しの犯人探しばかりしても仕方がないと思いませんか。日々の仕事に追われて短期で物事を見るのは仕方ないですが、長いタームで全体像を俯瞰しながら進める方が、締めてみると良い結果で終わっていることの方が多いはずです。

さとう・まさふみ ノーリーズで物流倉庫からキャリアをスタート、02年からMDとしてメンズの立ち上げを担当。10年からフリーランス、14年にエムズ商品計画を設立。MDアドバイスや専門学校での講義など多方面で活躍。大分県出身。

(繊研新聞本紙20年7月27日付)

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