阪急阪神百貨店山口代表取締役社長 OMOで百貨店ビジネスを拡張

2020/07/24 06:29 更新


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【パーソン】阪急阪神百貨店代表取締役社長 山口俊比古さん OMOで百貨店ビジネスを拡張

 4月1日に社長に就任した。新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下での臨時休業、食料品フロアのみの営業など、かつてない状況下での対応を迫られた。未来に向けて取り組むべきことは固まっていたが、コロナ禍による消費スタイルの変化など新たな課題も見えてきた。コロナ拡大前に考えていたこと、感染が広がるなかで取り組んできたこと、コロナ禍を踏まえた百貨店事業のこれからについて聞いた。

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感じる力、考える力、行動する力

 ――社長就任への思いは。

 私が思う社長として大切なことは、謙虚であること、真摯(しんし)であること、信念を持つことです。もうひとつは自分らしさをきちんと持つこと。店長、役員と肩書は変わっても、山口は山口であり、常に変わらず自分のキャラクターを貫こうと思っています。

 この3年ぐらい企画室の役員になるなど将来の計画に携わりながら強く思っていたのは、会社のビジョンがないと信念は貫けないことです。「お客様の暮らしを楽しく、心豊かに、未来を元気にする、楽しさナンバーワン百貨店」。このビジョンを通して、社会の、お客様のお役に立つことが信念です。青臭いかもしれませんが、コロナ禍により一層それが大切だと思うようになりました。

 ――1月末に打診を受けた。考えていたことは。

 ビジョンを具現化することです。これは当時も今も変わりません。そのためには、三つの取り組みと一つの大きな課題を解決しなければなりません。取り組みの一つ目は、最大の強みとみているリアル店舗を磨き上げ、魅力を高めること。ヨコ軸発の価値創造で楽しさナンバーワンを追求していきます。ゴールはなく、常にレベルアップが欠かせません。社員全員がビジョンを、いかに自分事として捉えることができるかが重要です。まずは仕事抜きに普段の生活で感動体験を積もうと伝えています。それがないと楽しさは提案できませんから。感動体験を感じ取る力、そのことを考える力、そして行動する力をつける。感動体験を通して三つの力を高めていくことが、ヨコ軸発の体験価値を提供するレベルを上げていくことになります。

 二つ目は、デジタルを活用したお客様との関係作りに新たに取り組むこと。なくてはならない存在になったスマートフォンでの情報収集やコミュニケーションなど消費スタイルはデジタル化しています。いつでも、どこでもつながり続ける関係作りと、それをどうビジネス化するかです。つながりたい気持ちになる価値提供が重要です。三つ目は環境問題。地域に寄り添い、住まう人たちの未来を元気にする、環境負担を減らし豊かな社会の持続に貢献する、文化と伝統の継承に取り組むなど、百貨店の特性を踏まえた社会課題解決に取り組んでいきます。

 ――大きな課題とは。

 止まらない粗利益率の低下です。売り上げが前年と同じであっても利益が下がることは大きな問題。売り上げを伸ばす取り組みは当然しますが、生産性を高めないといけない。カテゴリー、ブランド、取引先といったタテ型ビジネスの業務を行革やデジタル化でスリムにして、ヨコ軸発の働き方に振り替えています。

 ――食料品以外の臨時休業が続きました。

 日々刻々と変わっていくコロナの危険のなかで、お客様と働く従業員、いかに双方が安心安全と思える環境を作ってライフラインとしての営業を続けるか。そのことに全力を注ぎました。コロナに対する人の心の揺れ動きを見ながら、毎週店を回り、目で見て、声を聞いて、肌で感じて、極力後手にならないように改善を繰り返してきました。正解はありませんから、厳しかったですね。事業も大切ですが、命が最優先です。

 ゴールデンウィーク前ぐらいでしょうか。出口のないトンネルから少し前向きなムードになってきましたので、コロナ禍でどう変わっていくかを議論し始めました。デジタル化は感覚的に4~5年をかけてと思っていましたが、三つの取り組み、一つの課題を一気にやろうと決断しました。

ビジョン志向の働き方へ変革する

 ――全館営業再開後の消費について。

 マーケット視点でみると、インバウンド(訪日外国人)売上高は、全体で10%ほどでしたがほぼゼロになりました。20年1月のレベルまで戻るのは2年かかるとみています。国内消費もビフォーコロナの今年1月のレベルになるのは良くて来春、もしかすると来秋が妥当かもしれません。ワクチン、治療薬次第で変わると思いますが、心の奥底から楽しめる状況にはありません。また、完全なテレワークにはならないにしても、都心に来る人が減る可能性があります。消費スタイルも変わるでしょう。これまでは旅行など外に向いた消費だったと思いますが、家ナカで楽しむ需要が改めて見つめ直されています。

 ――改めて百貨店の強みと課題は。

 強みは、何と言ってもリアル店舗の圧倒的な存在感です。ところがです。来店出来なくなるとは思っても見なかったこと。リアルの強みを過信し、一本足で来ていたことに気づかされました。

 リアルを強みにしながら、オフラインでもオンラインでも楽しさナンバーワン百貨店を目指すOMO(オンラインとオフラインの融合)という新しい営業スタイルを打ち出していくことを決めました。認知、接客、購買、リピートといった購買行動を、顧客視点でリアルとデジタルのどちらも利用できるようにしていきます。

 今春、少しチャレンジしたのが阪神梅田本店の大ワイン祭です。800種類ぐらいを無料で試飲ができる、1週間で1億5000万円程度を販売する名物催事ですが、今回はオンラインに会場を設けました。試飲はできませんが、SNSや動画を活用して参加したような気持ちになっていただいた結果、オンラインのみで6000万円を販売しました。阪急うめだ本店のワールド・ティー・フェスティバルもリアルで1億円程度販売する催事です。最終結果はまだですがオンラインのみで半分ぐらいはいくと思います。今回はオフラインで出来ないからオンラインで取り組んだもの。今後は、催事期間、営業時間の制限のあるリアルだけでなく、オンラインでも体験できるようにすることを目指しています。リアルでは1週間の催事でも、オンラインでは年間ということも考えられます。全く光景が変わります。ビジネスの幅が広がるとみています。

 もっとも単なる物産展では駄目。コンテンツに特色、魅力があってこそです。リアルで展開しているコンテンツの強みをどうオンラインに乗せていくかですが、催事、ワールド開発ともにどんどん広げていきたい。もうひとつは、Zoomなどを使った外商顧客を中心とするワン・ツー・ワン接客です。お客様と販売員の強い絆があるからオンラインでもつながることができますので、これもOMO。リアルの強みをOMOでどれだけ拡張できるかがポイントです。

〝スペシャルティコンテンツ〟と呼ぶ独自の売り場・催事開発を進めている(阪急うめだ本店・祝祭広場で実施した「フランスフェア」)

 ――システムに投資する。

 システム投資も大切ですが、一番は働き方です。マインドはリアルですから、どれだけマインドチェンジできるかが重要です。ビジョン志向のワークスタイルへの変革がアップデートした方針です。今までの働き方や業務で、続けること、止めること、減らすこと、始めることを部門に落とし込んで点検と変革を進めようとしています。

 ――OMOの推進体制は。

 オフラインの人、オンラインの人となっては駄目で、それはOMOではない。仕組みを作るチームは必要ですが、オフラインの人がオンラインも担う。同じプレーヤーが対応するのが肝です。店頭で出来ていることを、オンラインでどう表現し、購入できるようにするかしかありません。オンとオフの構成比を目標には掲げていませんが、仕組みへの投資はしますので、(売上高構成比で)最低10%ぐらいはないと。本格的にOMOを構築できれば、それくらいはいくでしょう。

 ――改めて重視することは。

 お客様にとって心地良い、リアルとデジタルを融合した新しいOMOの営業スタイルを確立すること、当社ならでは独自性を持って実現するためにビジョン志向のワークスタイルへの変革を推進していくこと、その両輪で、ビジョンを実現することです。

 やまぐち・としひこ 1986年神戸商科大学(現兵庫県立大学)商経学部卒、同年阪急百貨店(現エイチ・ツー・オーリテイリング)入社、09年阪急阪神百貨店川西阪急店長、12年阪急メンズ東京店長、14年執行役員、15年執行役員阪急本店副本店長、17年執行役員企画室、営業政策室など担当、18年取締役執行役員企画室、営業政策室など担当。20年4月から現職。56歳。

■阪急阪神百貨店

 1929年に阪急百貨店創業、47年京阪神急行電鉄より分離独立し阪急百貨店設立。07年10月に阪神百貨店との経営統合による持ち株会社エイチ・ツー・オーリテイリング設立。08年10月に阪急阪神百貨店設立。店舗数は現在、阪急百貨店12店、阪神百貨店4店の計16店で、19年度の取扱高は4595億円(前期比1.7%増)。旗艦店の阪急うめだ本店の19年度は2412億円(3.8%減)。12年の「劇場型百貨店」をコンセプトに建て替え増床オープン以降、18年度まで増収を続けてきた。阪神梅田本店は14年から建て替え工事を開始、18年に第I期棟が開業、21年秋に全館開業を予定している。このほか、関西ドミナント戦略のもと、そごう・西武の2店舗を譲り受け、19年秋に神戸阪急、高槻阪急に屋号変更して営業を開始した。20年秋に中国・寧波阪急(仮称)の開業を予定している。

《記者メモ》

 また百貨店事業が新たな段階に入る。話を伺い、そう感じた。建て替え増床した阪急うめだ本店の最大の特徴は、9階に祝祭広場という広大なイベントスペースを設けたこと。まだ売り場効率重視だった時代に設けた〝非物販空間〟がその後の高い集客力を維持する礎の一つとなる。その数年後にファッションフロアの大規模改装に着手し、年齢軸からモード、コンテンポラリーといった売り場分類に変えた。これらの結果、インバウンド(訪日外国人)需要の後押しもあったが、建て替え後から売上高約600億円を上乗せしてきた。

 端的に言えば、同社は集積価値ではなく、独自の編集価値を追求している。「楽しさナンバーワン百貨店」というビジョンの実現には「ゴールはない」という。さらなる高みに向け、働き方の変革に着手する。リアルの強みを〝拡張する〟OMOという営業スタイルの構築にも乗り出している。閉塞(へいそく)感が漂い続ける百貨店業界にあって、同社が進める新たなビジネスモデルの確立に注目したい。

(吉田勧)

(繊研新聞本紙20年6月19日付)


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