連載の最終回はパンデミック(世界的大流行)前に最も勢いのあったDtoC(消費者直販)の現状を紹介します。
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VCマネーに頼らず
オンラインでユニークな体験を提供する新ビジネスとして台頭したDtoCは、SNS上で存在感を持ち、急速に既存プレーヤーの領域を脅かす存在として世界中から注目されました。
数年でユニコーン企業(時価総額10億ドル以上)となり、株式公開した企業もあります。急速な成長の背景には、高額化した消費財市場、安価なデジタル広告費、競合の不在などの追い風と、それを活用できるベンチャーキャピタル(VC)マネーという有利な環境がありました。
それがなくなった今、VCから資金調達せず、ある程度の規模に育つまで自己資金で運営し、ファッション業界や有力リテーラーで評価を得るなど、従来型の手法でブランドを立ち上げるのが標準になりつつあります。オンライン体験やコミュニケーション、ツールなどデジタル面の標準はそのまま継承されています。
ウィリアムズバーグで創業したジュエリーブランド「キャットバード」は今年、20周年。未開発の地域で小さな店舗から始め、ECにも優れた顧客体験を持ち込み、収益が実店舗をはるか上回るまで成長し、ソーホーやロックフェラーセンターなどの好立地を起点に、地域に合わせた実店舗を少しずつ増やしています。
DtoCの代名詞でもある眼鏡の「ワービーパーカー」は、現在250店舗超を全米に展開していますが、それをさらに900店舗まで増やす計画です。
ベーシックよりトレンド
アパレルでは、ベーシックなマスプロダクトより、ファッション性のあるスタイルを短いスパンで定期的に投入するブランドが増えており、人気の型や生地を再活用しながら少量で毎週追加生産するやり方で安価にプロダクトを提供し売り切ることに成功しています。
ロサンゼルスに本社を構えるZ世代に人気のレディースウルトラファストファッションブランド「サイダー」は、「シーイン」と同様のビジネスモデルながら、トレンドにインスパイアされた独自のスタイルで高い顧客エンゲージメントを獲得しています。ティックトックやインスタグラムなどでのブランドのプレゼンスも大きく、昨年は初めての期間限定店をニューヨークで開催しました。
アメリカでブランドを立ち上げるというのは、常に多くの人の目標となっています。そこに、DtoCの出現で、より多くの人が参入しました。そこで勝敗が分かれるのは当然であり、その中で何が生き残り、なぜ生き残っているのか今まで以上に見極めが重要です。
(リテールリサーチャー・江原理恵)=おわり
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