【次代の主役たち・熱狂を作る㊦】楽しんでこびずに丁寧に

2021/02/15 06:29 更新


《私が作るファッションの明日》次代の主役たち・熱狂を作る㊦ 楽しんでこびずに丁寧に

 新型コロナウイルスの感染拡大以降、多くのファッション小売業が客数減による売上高の減少に苦しんでいる。しかし、堅調な店も存在する。以前から顧客と綿密なコミュニケーションを取り、ファン作りに注力してきた店だ。コロナ下も健闘する若手経営者から、顧客との向き合い方を考える。

(友森克樹)

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■繁華街でも健闘

 レディスブランド「アメリ」を運営するビーストーンは、20年7月期の売上高が前の期に比べて10%増だった。今期もECがけん引して増収基調。ここ数カ月は実店舗も前年並みに回復してきた。五つある実店舗のうち、前年と比較可能なのは、ルミネ新宿ルミネ2の新宿店と路面立地の代官山店、心斎橋店。これらのなかでも「新宿店が最も良い」(黒石奈央子CEO=最高経営責任者)という。

 繁華街にある店の多くが苦戦するなかでも堅調なのは、「オンラインのコミュニケーションを通じて服作りの過程や背景を伝えている。丁寧に関係を築いてきたファンが店に足を運んでくれる」ためという。濃いファンを持つ店は「外部要因に左右されにくく、コロナ下でも強い」と見る。20年4月、ブランディング向上やファンとの関係強化などを目的にユーチューブチャンネルを開設した。動画でのコミュニケーションに一層注力し、さらなるファンを作る。

「アメリ」のユーチューブチャンネルでは、服作りの過程を見せる動画も

■間口狭く敷居高く

 東京都渋谷区神山町のメンズセレクトショップ「ワガママトウキョウ」は、18年12月の開店。以来、別注商品を軸とした他にない品揃え、対面販売などを強みに成長してきた。新型コロナの感染が広がる昨春まではネット販売をしておらず、地方へ出向く「出張販売」で遠方のファンも獲得してきた。

 昨春の緊急事態宣言以降は、オンラインツールを活用したウェブ接客や試着便サービス、来店予約制の導入など、迅速かつ柔軟な対応で成果を上げている。11月からは完全予約制に変更した。「来店のハードルを上げることでコアな顧客との濃厚な関係が築けている」という。

 ECやSNSでのコミュニケーションでも、実店舗同様の接客を心掛ける。不特定多数の客にこびることはせず、間口を狭くしている。インスタグラムやユーチューブでのライブ配信も積極化。別注商品の紹介や質問に回答するなどして、既存のファンとの関係を深めつつ、新たなファンも作っている。

 ファッション販売は「楽しむ気持ちが大事」と話す中村勇貴代表。「イケている店のイケている人から物を買いたいというのが顧客心理。イケているというのは、有名だったり、知識が豊富だったりすることではない。単純に服が好きで、ファッションを楽しんでいること」という。こうした姿勢がファン作りにもつながっているようだ。

(繊研新聞本紙21年1月13日付)



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