【次代の主役たち・熱狂を作る㊤】オーバープリント リアルとネットの反復横跳び

2021/02/14 06:30 更新


《私が作るファッションの明日》次代の主役たち・熱狂を作る㊤ オーバープリント リアルとネットの反復横跳び

 突然やってきた新型コロナウイルスが時計の針を一気に進めた。リモートワークの定着やECの伸長などライフスタイルは完全に変わり、これまで遠巻きに見られていたスタートアップ企業や若手起業家の考え方が新常態になりつつある。

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 服をまとうことで生活や人の気持ちが豊かになることは、コロナ下もその先も変わらない価値だ。一方で過剰在庫などの課題は今すぐに解決を迫られるものになった。だからこそ、売り上げばかりを追求したセールありきの過剰供給に終止符を打ち、ファッションビジネスはエッセンシャルな産業だと胸を張りたい。

 スマートフォンが浸透したことで、企業と消費者の1対1のコミュニケーションが可能になり、お客の顔は以前より見えやすくなった。デジタル企業はSNSを駆使し、自社の需要を見極めている。消費者の生活や趣味・嗜好(しこう)から、何に価値を感じて服を購入するのか、どんな心理で写真を投稿するのかまで、細かく分析している。

 リアルやデジタルなどアプローチの角度は異なるにしても、目の前の客とどう向き合うかは商売の基本。大転換期は原点の見直しを迫り、旺盛な新陳代謝を促す。産業の活力を取り戻すチャンスだ。

 今、ストリートで若いインスタ世代から注目されているブランドが「オーバープリント」だ。期間限定店には入場券を求めて数百人が行列し、ECは5分、10分で完売する。様々なブランドやアーティストからの協業依頼も絶えない。運営するオーバープリント(大阪市)の山脇孝志社長は「リアルとネットの反復横跳びで熱狂を作りたい」と語る。

(藤川友樹)

■細部に気を配る

 山脇社長は19年、子供服メーカー在籍中に起業した。副業だったが独立、デザインやSNS・EC運営を1人でこなす。売上高は19年の約1000万円から20年は2億円に、インスタグラムのフォロワーは2000人から4万6000人に増えた。

 支持される理由の一つが、インスタで映えるデザインと物作りへのこだわりだ。イラストレーターの古塔つみさんと協業したデザインや、ロゴを前面に出したアイテムが中心。テーマは「レトロ50%・ストリート50%」。18~24歳の男女に向け、パーカ(1万2000円)やTシャツ(6000円)、スニーカー(7700円)などを作る。

イラストレーターの古塔つみさんと協業したアイテムがブランドのアイコンに

 単にイラストレーターと協業するだけでは「小ださくなる」ため、「配色やプリント技法、サイズ、撮影した時のイメージ」まで気を配る。

 例えば「お客がどんなポーズで写真を撮るのかまで想像」してロゴの配置を決める。6色のインクを重ね刷りし、洗うと退色して徐々にビンテージっぽくなる印刷技法を取り入れている。ボディーは米国のメンズサイズをイメージしたオリジナルで、それをユニセックスアイテムとして販売している。

写真のポーズまで計算してロゴを配置

■アンチテーゼ込め

 販売手法もユニークだ。卸も一部しているが、新商品は期間限定店などで販売し、その後ECで売るのが基本。これを繰り返し、セールはせず、売り切るスタイルを徹底する。

 特に期間限定店は「コロナ禍でリアルの価値が高まり、売り上げのケタも変わった」と注力する。以前は40~50人だった入場券を求める行列が、コロナ禍から400人ほどに膨れ上がった。販売チャネルの使い分けとUGC(ユーザー生成コンテンツ)のフル活用が成果につながっていると見る。

 例えば20年8月に出した新商品の場合、まず消費者向けに入場券が有料の展示販売会を大阪で開いた。そこで見せた商品は全国を回って期間限定店で販売。そのつど、消費者がSNSに投稿した着用画像や行列の様子などをインスタでシェア。「熱狂の見える化と拡散」で購買意欲をかき立てた。

 期間限定店では大半の商品が完売し、買いたいのに買えない客も多い。そこで、完売品を追加生産して今年の元日にECで再販、大いに売り上げた。初売りセールが始まる元日、正価で一気に売り「ファッション業界のセール依存へのアンチテーゼ」の思いも込めた。

山脇社長。デザインからECまで1人でこなす

(繊研新聞本紙21年1月12日付)



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