アドエルム(旧トリピュアジャパン、東京)の「アドエルム」は、人体の生理的反応に着目した技術だ。鉱物から抽出した様々な元素を調合したパウダーを繊維など様々な素材に加工し、その素材が体に刺激を与えた時の反応を利用して、体の運動や休息の効率を高めるという。
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用途別に鉱物を調合
アドエルムは素材の名前ではない。「人の生理的反応を利用したテクノロジー」だという。吸汗速乾や保温、伸縮などといった一般的な機能素材は、素材そのものの機能を価値として訴求する。一方、アドエルムは開発当初から、「スポーツや仕事のパフォーマンスを上げたい」「リラックスして心地良く眠りたい」などといった用途を価値として訴求してきた。快適な入眠用の「アド0」、リラックス用の「アド1」、運動効率を高める「アド2」「アド3」といった種類があり、用途によって鉱物の組み合わせを変えている。
人のパフォーマンスをより効率的に発揮させる〝ライフハック〟ウェア」(杉本健社長)を作ることが開発の軸にある。人の体にフォーカスし、「素材を使う人にとって意味を持つ」技術の開発にこだわる。
アドエルムの技術開発は、人体生理学、脳科学、心理学がベースにあり、杉本社長の強い探究心のたまものだ。体のメカニズムを知る一方で、様々な鉱物の調合パターンを試し、用途に応じた生理的反応を体に促すためにはどのような鉱物の調合パターンで刺激を与えると適切なのか、検証を重ねながら導き出している。検証はユニチカガーメンテックと伊藤忠ファッションシステムが18年5月に開設した検査機関のHCラボに依頼。生理反応が起こった時の筋電図、脳波、心拍、呼気代謝など複合的な視点から臨床試験を実施し、アドエルムの公式サイトに結果を随時公開している。
基準作り伝わりやすく
地道な検証を繰り返す理由は、「消費者が目的や体調に応じて物を選びやすくしたい」から。そのため、同社は人の体のパフォーマンスを評価する基準も作った。臨床試験で得たデータをグラフで可視化するとともに、データを基に「人体の覚醒度を測る」という独自の「アクティブ指数」を割り出す。この基準を使って商品を比較することにより、消費者が比較購買しやすくなる。商品の開発者にとってもターゲットを設定しやすくなり、売り手にとっても商品説明の説得力が上がると考えた。
同社の技術を活用する企業が増えており、現在はチャコットやアツギ、蝶理、清原などとのライセンス契約を通じ、商品ラインナップが増えてきた。インナーウェア(1万円前後)を主力とするアドエルムブランドの自社商品も販売しており、日本のトップアスリートにもユーザーが広がっている。
今年から欧米市場の開拓にも本腰を入れ始めた。1月末、ドイツで開かれた世界最大のスポーツ用品見本市ISPOに初出展。同展では、ユニークで革新的な素材を選ぶISPOテックストレンドのベースレイヤー部門でトップ10の一つに選ばれた。欧州の有力スポーツブランドが高い関心を示し、商談を進めている。現在、欧米市場の開拓に弾みをつけるために現地企業との協力も視野に拠点作りの準備を進めている。
生産面では日本で原料、生地などの素材、製品を作る以外に、アジアへ原料を供給して生地、縫製の企業と協力し、サプライチェーンのグローバル化に向けて動き出している。
(繊研新聞本紙20年4月21日付)