ベネクス(神奈川県厚木市)が製造販売する「ベネクス」は、休養・睡眠時用のリカバリー(回復)ウェアだ。ナノプラチナなど粒子状の鉱物を繊維に練り込んだ独自開発の特許素材「PHT」(プラチナハーモナイズドテクノロジー)を用いた。商品発売当初、購入者の大半は男性のアスリートだった。その後、提案する着用シーンを増やすとともに、商品バリエーションも広げたことでアスリート以外や女性の需要もつかんでいる。現在の主販路は百貨店、スポーツ専門店。22年までに国内で20億円の売り上げを目指す。
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鉱物を繊維に均一分散
同社のリカバリーウェアは1着1万円前後と高額にもかかわらず、アスリートを中心としたスポーツの関係者に「疲労回復や安眠を促す」として支持され、販売実績を積み上げてきた。販売枚数は09年の発売から19年6月時点で累計95万枚となった。
ベネクスが使うPHTは、鉱物が発する微弱な電磁波による体への作用を利用している。「電磁波は体を優しく刺激し、副交感神経が優位なリラックス状態になるよう促す」という。開発のきっかけは、創業者の中村太一社長が介護に関わる仕事を通じて、寝たきりの高齢者が抱える床ずれの悩みを解消するベッドマットを作れないかと考えたこと。
「寝たきりの人が床ずれになるのは代謝が悪いからで、代謝の悪化は自律神経の働きが衰えているから」ということに着目。鉱物が発する遠赤外線で「体内に何らかの働きかけができるはず」と考えた。
中村社長は金属の微粒子などを扱う素材メーカーに通った。その結果、ナノ素材を開発する企業が関心を示し、共同開発に着手。開発の過程で、「プラチナなどナノ化した鉱物を一定の割合で配合すると、疲労回復効果が得られることを発見した」という。
とはいえ、ナノ素材はくっつきやすく、ポリエステル原料に混ぜ込むとナノ素材同士が凝集してしまう。このため、開発したナノ素材を混ぜたポリエステルのマスターバッチを作ってから、再度ポリエステル樹脂に混ぜて溶かして紡糸し、繊維内にナノ素材が均一に分散するようにした。
潜在需要は大きい
開発したPHTを使ってベッドパッドを作り、販売したところ、「1枚も売れなかった」。1枚10万円という価格がネックだった。思い付きで余った生地を使ってTシャツを作り、〝疲労を回復するウェア〟として出展すると、思いがけずフィットネス施設のゴールドジムのバイヤーが「ジム利用者は鍛えすぎて体がボロボロだから売店で売れるかも」と関心を持った。
ゴールドジムとの取り組みで中村社長が気付いたのは「科学的に研究が進んでいたのは体を強くする3大要素のうち運動と栄養面の二つ。もう一つの休養が手つかずだった」こと。休養を追求することの可能性を感じ、スポーツ分野のリカバリー領域を掘り下げていくことになった。
最初はジム通いで鍛えている人の間に口コミで評判が広がり、アスリートやそのコーチ、トレーナーの間でも認知が広がっていった。百貨店バイヤーも関心を持ち、取引の依頼が増えた。百貨店での販売を通じ、「仕事による疲労や体の不調に悩む人が意外に多い」ことがわかったという。これにより、ビジネスはもちろん、日常生活の様々な場面でリカバリーウェアの潜在需要があることに気付き、商品開発の幅を広げている。