ヴァン・ナチュールと郷土料理を味わうジョージアの旅(宮沢香奈)

2022/05/27 06:00 更新


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4月末でもトレンチコートが必要なベルリンから、連日20℃を超えるジョージア・トビリシへと向かった。音楽フェスの取材でポルトガル・リスボンを訪れたばかりだったが、約2年間どこにも行けなかった鬱憤を晴らすかのように、2週間も空けずに再びベルリンを飛び出した。

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ヨーロッパの最東端、南コーカサスにある共和制国家、かつてはグルジアとも呼ばれていたジョージアは、日本人にはあまり馴染みのない国だろう。しかし、ベルリンに限らず、ヨーロッパ諸国から訪れる人は多く、近年は人気観光地の一つとなっている。ユーロ圏からしたら驚くほど安い物価、日本人の舌にも合う郷土料理や発祥の地であるヴァン・ナチュール(自然派ワイン)、ソビエトモダニズム建築、温泉など、ジョージアを訪れる目的は多様性に満ちている。

個人的には、世界的評価の高い有数クラブ「Bassiani」に以前から注目していた。2014年に設立された同クラブは、サッカースタジアムの地下にあり、スイミングプールの跡地がメインフロアーとなっている。2008年に勃発した紛争後、国を立て直そうと躍起になる権力者たちの水面下では、テクノを中心としたアンダーグラウンドシーンが瞬く間に根付いていったという。抑圧された世界で人間が求めるものは自由と、その象徴である音楽なのかもしれない。パンデミックにより、世界一自由だと思っていたベルリンの全クラブが閉まり、人生初のロックダウンを経験した時、真っ先に「Bassiani」のことが頭に浮かんだ。

結局、当初予定していた日程より短縮したこともあり、週末のハードなクラブ活動は出来なかったが、少しでもローカルカルチャーに触れることができたことは嬉しかった。そして、今回の旅では、建築とワインとジョージア料理を存分に堪能することができた。建築に関しては、トビリシに住む友人デザイナーの協力のもと取材を行ってきたので是非そちらをご覧頂きたい。

ジョージアの郷土料理と言えば、まず、ヒンカリの名前があがる。見た目は、水餃子や小籠包に似ており、小麦粉で作られた皮の中に具と熱いスープが包まれているのが特徴だ。具材は、ひき肉(牛・豚・羊肉)、パクチー、玉ねぎ、にんにくなど。ヒンカリだけでも4店舗のレストランで試したが、どこで食べても美味しくてすっかり虜になってしまった。この原稿を書いている今でもすでにヒンカリが恋しくなっているほど。

他にも、ジャーマンポテトと豚肉の炒め物のオジャクリ、ホテルのブレックファーストでも常備されていたキュウリとトマトがメインのジョージアンサラダ、くるみのペーストを焼きナスで包んだバドリジャーニなど、どれも絶品。ジョージア料理は基本的に香辛料、ハーブ、ニンニクが使われており、オイリーなメニューが多い。和食とは全く違うテイストなのに、毎日のようにジョージア料理を食べていても飽きが来ないのが不思議だった。

郷土料理以上に楽しみにしていたのがワインである。まず、驚いたのがジョージア料理のレストランだけでなく、インド料理でもラーメン屋でも基本的にワインと言えば、ヴァン・ナチュールしか置いていない。メニューにも記載されていないため、最初はそれが分からず、自然派でも何でもないハウスワインを飲んでいると勘違いしていた。ワインバーに行かないと飲めないのかと落胆していたら、地元の人たちに笑われてしまった。

実は、ワイン好きを語っていながら、ジョージアワインに関しては全くの素人である。ベルリンでもジョージア料理専門店は数店舗しかなく、ワインショップでも取り扱いが少ない。筆者が”オレンジワイン”と呼んでいたワインは、ジョージアでは”アンバーワイン”と呼ばれており、果皮や種も一緒に発酵させたオレンジがかったワインのこと。白ワインとメニューに記載されていてもアンバーワインであることが多い。

一番お気に入りのアンバーワインは、ボトルで90ラリ(約3800円)。トビリシの中心地の人気レストラン「Sofia Melnikova’s Fantastic Douqan」で一番高額のワインが4000円以下で飲めてしまう。
「Sofia Melnikova’s Fantastic Douqan」は、果樹園のようなガーデンテラスが心地良い。
こちらもヒンカリが有名なレストラン。朽ちたブルーとグレーの配色にアンティークのインテリアがステキな店内。

赤ワインの代表は”サペラヴィ(Saperavi)”と呼ばれる品種で、ジョージア全土で広く栽培されている濃い色が特徴。トビリシのレストランやバーでも十分おいしい”サペラヴィ”を飲めるが、ワイナリー直送のフレッシュで希少価値の高いワインを格安で飲むことができる町がシグナギである。シグナギはトビリシから車で1時間ほどで行ける小さな町で、ジョージア最大のワイン産地カヘティ地方に位置する。

シグナギで人気のワイナリーが運営するレストラン「Pheasant's Tears」
最高級のサペラヴィがボトルで70ラリ(約3,000円)

カヘティ地方に住む友人に連れて行ってもらったレストランは、地元のワイナリーが運営しているレストランで、これまでに飲んだことのないテイストの赤ワインを味わうことができ、全種類制覇したくなった。まさに、ワイン天国!!筆者がヴァン・ナチュールを好むようになったのは、当然ながらケミカルな要素が全くなく、味も素材もクリアーである点と、どんなに飲んでも悪酔いすることなく、二日酔いで頭が痛くなることもないからだ。

空気が澄んでいて、長閑なシグナギの街並み

カヘティ地方のワインは”クヴェヴリ”と呼ばれる独自の醸造法で作られており、粘土でできた素焼きの壺のことを”クヴェヴリ”と呼ぶ。先端が尖っていて安定しないため、”マラニ”と呼ばれるセラー内の地中に埋められて使用されるとのこと。残念ながら、シグナギには数時間しか滞在出来なかったため、次に訪れる時は必ず何泊かして、ワイナリー見学といろんなワインを試して、ワインに溺れる日々を体感したい。

レストランの至るところにクヴェヴリが置かれており、インテリアにもなっている。

コロナの存在を忘れ、本当に久しぶりに食と文化を楽しむことができた旅だったが、”戦争”という別の文字が常に付き纏った。なぜなら、治安が良く、穏やかな空気が流れるトビリシの街は、ウクライナからの避難者とロシアからのツーリストや移住者で溢れ返っていたからだ。1日でも早く終息して欲しいと願いながらベルリンに戻ったら、今度は過去40年間で最も高インフレを記録したというニュースが流れてきた。

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長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。

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