日本からベルリンへ寄贈された平和の象徴“桜”が今年も満開(宮沢香奈)

2025/04/28 06:00 更新


日本にいた頃は、春めいてくるとお花見がしたいという欲求が自然と湧いてきたが、11年目を迎えたベルリン生活ではそこまで強く思うことはなかったかもしれない。それより、サマータイムが始まり、日が伸びて気温が上がることばかりに注目してしまう。“花より団子”とはよく言うが、“花より外でビールが飲みたい”これに尽きるのかもしれない。

≫≫宮沢香奈の過去のレポートはこちらから

しかし、今年は不思議と桜の木が気になる。現在住んでいるプレンツラウワーベルク地区には八重桜が多く、ポンポンに膨らんだ濃いピンク色の花が感動するほどキレイでかわいらしく、見つける度に立ち止まっては何枚も写真を撮ったほどだ。

中でも駅近くに位置するプラネタリウムの広場では、3月末にはすでに見頃を迎え、多くの人が足を運んでいた。同時にこの日は貴重な部分日食が見られる日とあって、愛好家たちが大きな機材を設置していた。桜が満開の場所で全く別の目的で集合している人たちがいることがおもしろく、ベルリンらしいと思った。

ベルリンには、リンデンをはじめとする40種類以上の街路樹が植えられ、街の中心地にある公園でさえ、ジャングルのように自然が豊富だ。しかし、桜の木が植えられているエリアは限られている。それでも、桜の名所と呼ばれる有名スポットまであり、ドイツ人だけでなく、”お花見”を知っている欧州人は非常に多い。しかも、ベルリンのお花見スポットに咲いている桜の多くは日本から寄贈されている背景を持つ。

1989年11月9日に壁が崩壊したことは世界的ニュースとなったが、ドイツが統一された翌年の11月から20年間に渡り、日独友好の証として桜を贈るキャンペーンが実施された。これは、テレビ朝日が中心となって視聴者から募金を集め、約20,000本の桜の苗木をベルリンや近郊のブランデンブルクに贈った有名な話だ。現地に住む日本人としてもとても嬉しいエピソードであり、桜は平和の象徴だということも思い出させてくれる。

最も有名な桜スポットは、一番最初に壁が崩壊し、壁跡に沿って多数のソメイヨシノが植えられているBornholmer Straße(ボーンホルマー通り)だろう。駅前の道路に掛かっている大きな橋が特徴的で、東西に行き来するための検問所も設置されていた。桜は橋の下から壁跡に沿って見ることができる。

壁崩壊25年周年のイベント時に訪れたが、桜の季節ではない11月だったため、壁跡には無数のLEDライトがアップされた。寒い日で夜だったにも関わらず、お年寄りの姿も多く、歓喜に満ちた人もいれば、感慨深い表情を浮かべる人もいたのが印象的だった。

現在、ベルリンでは2つの美術館と1つのビルボードで、オノ・ヨーコ展が開催されている。本人不在の回顧展ではあるが、当然ながら世界平和をテーマとした作品で溢れており、桜の木と同様に平和について改めて考えさせられる展覧会であることは確かだ。特に、現在の日本から流れてくるニュースの多くは不安や疑問に思うことばかりだ。問題のない国などなく、政権が変わったばかりのドイツも同様であるが、離れているからこそ目につき、自国であるからこそ一番に心配になるのだ。

≫≫宮沢香奈の過去のレポートはこちらから

長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。



この記事に関連する記事