ジョージア拠点の日本人建築デザイナーが伝えたい伝統技術と地産地消(宮沢香奈)

2025/09/16 06:00 更新NEW!


ジョージアに再び訪れた理由のひとつに、現地で建築デザイナーとして活動している友人を取材したいというのがあった。友人のNao Tokudaは、東京、コペンハーゲンで実績を積み、2020年にトビリシに移住したのち、デザイン事務所「Design Studio NAO」を設立。日本人が運営するコミュニティーハウス「UZU」の2階に日本式の茶室を作り、多くのメディアに取り上げられ、オランダやアメリカのデザイン賞も受賞した経歴を持つ。

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建築デザイナーNao Tokuda

実は3年前にも茶室と彼の取材をさせてもらったが、当時からブルータリズムをはじめとする歴史的建造物をそのまま活かし、日本の伝統文化を融合させたリノベーションやコンバージョンを手掛けたいと話していた。残念ながら、コミュニティーハウス「UZU」の移転に伴い、同敷地には新規参入したレストランができ、茶室は面影も残すことなくコンバージョンされてしまった。当時の様子は以下の記事から見ることができるが、あの風情がなくなってしまったことは非常に残念だ。

(※3年前のインタビューはこちらから)

Naoさんは現在、トビリシに拠点を構える家具メーカー「KAO funiture」とのコラボレーションによる“Tea Tray 2610”プロジェクトを実施しており、ジョージア産のオーク材を使用し、ネジを使わず、日本の伝統的な木組み技法によって仕上げたティートレイを第一弾プロダクトとして発表した。フレームに使用されている均一な26mm×10mmのオーク材は、26mm×10mm という断面サイズの木片を使用することによって、製造する上で非常に効率がよく、廃棄する木片が少なくなるという画期的な手法を意味する。

また、シンプルでミニマルなデザインを強調することにより、飽きがこず、長年使用できるといったサステイナブルな取り組みも含まれている。


「トビリシに移住してから、ずっと地元の家具職人を探していました。ジョージアはワイン樽にも使用されているオークの生産地として有名ですが、そういった地元の木材を使って、日本の伝統技術を取り入れた製品をジョージアで生産したいと考えていました。いわゆる家具の地産地消ですよね。ただ、ネジを使わないという技法は日本の伝統技術で、それができるジョージア人の職人がなかなか見つかりませんでした。なので、KAO funitureファウンダーのギオと出会うことができ、トップクラスの技術を持つ彼らと一緒にプロジェクトを始動できたことはとても嬉しいです。ジョージアに拠点を置く、日本人のデザインスタジオとして、「地域性」と「エコロジー」という日本的価値観をローカルプロダクションを通じて共有することはとても大きな意義があると思っています。」

KAO furniture代表のギオルギ・シャルバシゼ(右)と同僚のギオルギ・チタゼ(左)

ティートレイは、陶磁器や食器、絵画などを取り扱うトビリシのコンセプトストア「Maizen Tbilisi」にて、限定受注販売されており、ティートレイに続き、次なる製品を企画中とのこと。Naoさんは「KAO funiture」のワークショップスタジオのデザインも手掛けている。家具製作で培った木材への情熱や知識を一般の人にも伝えたいという想いから木工教室としてオープンさせ、様々なワークショップを開催している。

元はガレージだった場所をリノベーションしたというスタジオは、ティートレイと同様にここでも端材が使用されており、床には、ジョージア名産ワインの使用済みコルクを圧縮させたリサイクルシートが敷かれている。アウトレット材とリサイクル材を駆使して作られた空間は、まさに地産地消の象徴と言える。また、暖簾や壁に並んだこだわりの日本製工具によって和の風情も感じさせる。


「KAO funiture」とのプロジェクト以外にもジョージアを代表する建築事務所「TIMM ARCHITECTURE」と仕事をしているNaoさんは、私も訪れた人気ビーチリゾート都市Batumiの大邸宅をはじめ、多数のプロジェクトを手掛けている。さらに、トビリシに拠点を構えるJICAのジョージアオフィス主体で動いている“一村一品プロジェクト”のサポートも行っているという。このプロジェクトは、ジョージア人アーティストによる作品、プロダクトを扱うセレクトショップをトビリシ市内にオープンさせ、まだ知られていない才能の浸透とローカルプロダクションの活性化を図る目的のもと始動。特に、“一村一品”という名の通り、トビリシ以外の地方を拠点とするスポットライトが当たりにくいローカルアーティストの作品にフォーカスし、キュレーションしていくとのこと。

観光業やスタートアップが盛んで、外国人投資家も多いジョージアには、旧ソ連時代の建物をリノベーションしたデザインが高く評価されている一流ホテルや施設が点在しており、有名建築家も多く輩出している。それでも全体的に見たら、ジョージア人はマイペースでのんびりしていて、ビジネスにストイックな印象を受けない。日本とコペンハーゲンを見てきたNaoさんにとってジョージアはどんな印象なのだろうか?

「日本やヨーロッパに比べて、ジョージアはまだまだ発展途上なところがあります。食のクオリティーが高く、自然も豊富で住みやすい環境ですが、僕が移住してきた頃に比べ、家賃や物価がかなり高騰しました。ウクライナ戦争の影響を強く受けているジョージアは、今まさに激動の時期です。ロシア、ウクライナ双方から移民を受け入れる姿勢が作り出す独特の雰囲気とある種の緊張感が混在する首都トビリシは、まさに世界の縮図であると感じます。建築に関して言えば、一見、高級に見える店舗でも技術の低さや施工の甘さに気付いてしまいます。例えば、ティートレイのように釘を使わずに組み立てる技術があれば、打ち込んだ釘が丸見えするようなことなく、美しい棚や什器を作ることができます。そういった日本の伝統技術を「KAO funiture」のような一流の職人と一緒に広げていきたいと思っています。」


ジョージアには旧ソ連時代に建てられた風情ある建築が山ほどあるが、廃墟のまま放置されているところが多い。古い建築が大好きな私にもいろいろ教えてくれたのがNaoさんだ。リノベーションやコンバージョンによって、オシャレで有効的な活用ができるのにもったいない。

友人の活躍を聞きながら、世界情勢が不安定な中、異国の地に根を張り、どれだけ自分のやりたいことを実現できるか、これが海外に暮らす私たちの最大の試練であり、挑戦なのだと実感した。

■Design Studio NAO

https://www.designstudionao.com/
https://www.instagram.com/designstudionao/

Photo : Nao Tokuda

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長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。



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