黒海沿いのジャングル村に滞在。ジョージアの旅・バトゥミ編(宮沢香奈)

2025/08/28 06:00 更新NEW!


 トビリシに1ヶ月と少し滞在してから、黒海沿岸にある都市バトゥミに向かった。正確には、バトゥミから程近いマヒンジャウリというサンセットが美しいことで有名なビーチとジャングルに囲まれている村に8日間滞在した。

≫≫宮沢香奈の過去のレポートはこちらから

 実は、バトゥミは今回の旅の目的地には入っていなかった。海には行きたいけど、”ショボいドバイ”とさえ酷評されているバトゥミの高層ビルやネオン、カジノには全く興味がなかったからだ。しかし、街中ではなく、ビーチが近いジャングル村を選んだことにより、地元の人たちの暮らしにも触れることができ、来て良かった!と思えたことが良かった。情報を提供してくれたトビリシ在住の日本人やロシア人の友人知人に感謝したい。

 バトゥミは、ジョージアの構成地域の一部であり、アジャリア自治共和国の首都、人口は約33万人。アジャリアは、他地域とは異なる宗教・歴史・文化的背景を持つため、ソビエト時代から自治権が設定されてきた背景を持つ。オスマン帝国の支配を長く受けていたことから、主にスンニ派のイスラム教徒が多く住んでおり、ほとんどがキリスト教徒のジョージアにおいて、2つの宗教が共存している珍しい都市でもある。

 目元だけ開いたヒジャブを被り、全身黒い衣服でビーチや街にいる姿を良く見かけたが、バトゥミにはモスクがひとつだけしか残されておらず、観光スポットのひとつになっている。彼らにとってモスクは最も神聖な場所だと思うが、多くは1930年代のスターリンによる独裁国家時代に閉鎖や取り壊されてしまったという。

 このように知らない国の知らない文化や歴史に触れることも旅の醍醐味だと思うが、ジョージアという国では、日本人はかなりのマイノリティーなのだということも身を持って感じた。特に年配の人や子供がじーっと顔を見てきたり、興味本意で、”チャイナか?”と聞いて来る人も多い。日本人と分かると態度が急変し、とびきりの笑顔になることにも戸惑った。ベルリンに限らず、西ヨーロッパでは、日本人ですか?と新日家の人たちから好意的に聞かれることはあっても、”チャイナ”や”ニーハオ”と言われることはほとんどなくなった。ジョージア人のガイドから中国人の移民は多いけど、日本人は本当にレアで出会うことが滅多にないからだと聞いて、納得した。

 バトゥミのビーチは、砂浜ではなく、丸い小石や玉砂利が基本。海水も場所によって全然透明度が違う。毎日のように違うビーチに足を運んだが、レストランどころか監視員さえもおらず、数人しかいない、知る人ぞ知るといったビーチが一番キレイだった。あとから調べたら、地元の人しか行かない穴場スポットだったらしい。

 ハイシーズンのはずの8月でもバトゥミの中心地すら混雑はしていない。マヒンジャウリやその周辺の村も同様で、非常に居心地の良い環境だった。しかし、少し離れたコブレティという町のツィヒスジリ沿岸に来て、初めてオーバーツーリズムというものを経験した。

 特に、ソビエト時代の旧サナトリウム(療養施設) だった建物をプール、バー、レストランなどのリゾート施設にリノベーションした「Shukura」は大人気で、エントランス付近は車が大渋滞しており、警察が管理に当たっていた。そのため、タクシーは途中までしか入れず、そこから徒歩で向かった。レストランは、ランチタイムやディナータイムなどの混雑する時間を避けたにも関わらず、常に待ち状態。スタッフは常にフル回転で、自分勝手で横柄な態度を取る客にうんざりした様子を見せていた。

 日本やスペインのオーバーツーリズムが問題視されているが、ツーリストが殺到する=客層の質も下がり、従業員のやる気も損なわせ、せっかくの美しいロケーションはゴミで汚染されてしまう。これは世界共通の問題なのだと実感した。

 廃墟となった建物の風情をそのまま活かしたバーとプール、ジャングルの中にオープンキッチンとオープンテラスを設置し、トイレのデザインまでかっこいい。さらに、ジャングルを抜けた先には、小さいながら岩ビーチの絶景が広がっている。この素晴らしい演出とアイデアには脱帽した。今回は、あまりの人の多さと湿度に疲弊して、早々に退散してしまったが、次回はオフシーズンに再度訪れ、コブレティに滞在しながら、Shukuraやジャングル、岩ビーチを堪能したいと思った。


≫≫宮沢香奈の過去のレポートはこちらから

長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。



この記事に関連する記事