アートシーンが充実しているベルリンの最新事情(宮沢香奈)

2024/12/25 06:00 更新


ベルリンには数え切れないほど多くのミュージアムやギャラリーが点在しており、常に進化しているアートシーンはおもしろい。しかし、残念なことに、毎月第一日曜日に多くの美術館や博物館が無料で観れる「Museumssonntag」 というサービスが今月を最後に終了してしまった。最終日に行きたいと思っていた「Neue Nationalgalarie」で開催中の世界的写真家ナン・ゴールディンによる「This Will Not End Well」は、事前予約だけで埋まってしまい、当日には並んでも入館したい予約なしの人だけで館内の広々したエントランスが満員状態に陥ったという。

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ベルリンのアートシーンを盛り上げるために行ってきたこの無料開放デーだったが、“無料だから美術館に行く” “その日以外は行かない”など、本来の目的とズレが生じてしまったようだ。通常の開館日にチケットを購入して展示を観に来る人が増えなければ続ける意味がなくなってしまうのも確かだ。問題視されるドイツの経済低迷が影響している可能性もあるが、ベルリン州はすでに文化予算を削減しており、それと同時に国営美術館への資金援助が途絶えたとのこと。

これまで芸術に対して前衛的な姿勢を取っていたベルリンだけに残念である。しかし、個人経営のギャラリーの多くは入館料を取っておらず、ほとんどのスーパーやショップが閉まる日曜日にも開いているため、週末にアートを楽しむ機会は失われてはいない。多数あるエキシビジョンの中から選ぶだけでも時間が掛かってしまうが、お気に入りのギャラリーや好きな作家のインスタグラムをフォローしているため、常にアップデートされた情報が入ってくる。

最近訪れたギャラリーで興味深かったエキシビジョンについて以下に紹介したいと思う。


写真家でアーティストのヴォルフガング・ティルマンスがプロデュースする「Between Bridges」にて、ロンドン拠点の映像クリエイター、ルーシー・ビーチによるショートフィルム作品「Out Of Body」が上映された。同ギャラリーは、ティルマンスによって2006年にロンドンで設立したのち、2014年にベルリンへ移転し、2022年に現在のミッテ地区に移転し、現在に至る。

「Between Bridges」は、ティルマン主導のもと非営利団体として、芸術、LGBTQ+の権利、反人種主義活動を支援しており、過去にはウクライナ人アーティストを支援するグループ展を開催している。


隣接する2つのギャラリーで開催されていた絵画展へ。手前の「Galarie Max Hetzler」では、ロサンゼルス拠点のアーティストLouise Bonnet(ルイーズ・ボネ)のソロエキシビジョン「Reversal of Fortune」が開催されており、ふくよかな裸の女性が様々なシーンで落下する姿を描いた作品が展示が並ぶ。天井が高く、吹き抜けの空間はとても開放的で居心地が良く、十分に取った間隔を十分に取った贅沢な展示方法も観やすくてよかった。同ギャラリーは、ベルリンに3ヶ所、パリ、ロンドンを含めると計6ヶ所にスペースを構える世界的なコンテンポラリーアートギャラリーであり、絵画だけに限らず、彫刻や写真の展示も開催している。


隣の「Galerie Judin」では、若手アーティストKiriakos Tompolidis(キリアコス・トンポリディス)の初個展となる「The More It Hurts, the Less It Shows」が開催されている。労働者としてギリシャからドイツに移り住んだ彼の先祖の物語を描いた作品は、美しい伝統的文化とどこか哀しげな表情が印象的。


2つのギャラリーのすぐ近くでは、アルヴァ・ノト(Alva Noto)名義で故・坂本龍一と親交が深かったことでも知られる実験音楽の重鎮カールステン・ニコライが主宰する「NORTON」のPOPUPストアがオープンし、初日のオープニングイベントには多くのファンが訪れた。

最新のリリース作品だけに限らず、デザインブックやオブジェの展示など、アートと融合させたギャラリーのようなショップとなっており、ミニマルデザインの宝庫と呼ぶに相応しいラインナップだった。カールステン自身もギャラリーを所持しており、コラボレーションによって期間限定のショップが設けられたという。


他にもまだまだ紹介したい多くのギャラリーが点在するベルリン。天気の良い日には外を散歩したくなるが、じめっとした曇り空の日にはギャラリーを巡り、アートに触れることをおすすめしたい。毎年深刻な冬季うつの予防にもなることを期待している。

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長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。



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