ベルリンで古代アジアの最高峰芸術に触れる(宮沢香奈)

2019/03/20 06:00 更新


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自宅から徒歩15分のところにまさかこんな衝撃的で独創的なミュージアムが存在するとは思いもしなかった。良くも悪くも想像を超える驚きを与えてくれるのがベルリンなのだけど、ここは、何度も足を運んでその都度違った感じ方や新しい発見を得たくなる。緊張して良い取材が出来なかったことなんてよくあるけれど、衝撃で魂を抜かれて放心状態になったのはきっと初めてのことだと思う。

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通信機材を置くために作られたと言われる旧東ドイツ時代の防空壕跡地にアンコール・ワットを代表するクメール彫刻と中国の王朝時代の宮廷家具や文人家具、それと並列して展示される現代アートの数々。作品には一切の説明がなく、仕切りもないという斬新で他にはない唯一無二のミュージアム『The Feuerle Collection』を紹介したい。雑誌の取材で訪れたのだけど、ここでは自分の視点のまま自由に感想を述べたいと思う。

サウンドルームと呼ばれる真っ暗闇の部屋で、ジョン・ケージの『Music For Piano No.20』を聴くことから始まる。真っ暗闇の中で目を閉じて聴こえてくる音に耳を澄ませながら、これから出会う作品たちに向き合うための心の準備をした。精神統一なのか、リラックするためなのか、外から持ち込んできたいろんなものをこの部屋で浄化させる気分になる。

音楽が止まり、光の差す方へゆっくり歩いて行くと、目の前に現れるのがこの光景。

10世紀から13世紀のクメール彫刻たち
明朝の石製長椅子(16世紀-17世紀)

まず、果てしなく広がる暗闇の中にぼんやりと浮かび上がるクメール彫刻たちの美しさと贅沢な展示に圧倒される。何より朽ち剥がれた壁や地下の独特の空気感、無機質さは東ドイツ時代のベルリンのイメージそのもので、そこに全くの異文化で異時代であるヒンドゥー教の神像たちがランダム(本当は綿密に考えられています)に置かれている。限られたLEDライトの下でじっくり神像の表情を眺めると穏やかにほんの少し笑っていたり、何かを語りかけているように見える。その時の自分の心情を見透かされているようで、それでいてとても居心地が良いため、時間を忘れてその場に立ちすくんでしまう。

ドイツ統一後、放棄されていた防空壕跡地、イギリス人建築家ジョン・ポーゾンによって改装された。
荒木経惟「緊縛」(1979/2015 年)と明王朝の石製文人机

収集家デジレ・フォイエルレ氏がエロスと感じる古典美術と現代美術の対比がこれである。石の彫刻にエロスを感じたことはなかったけれど、荒木経惟の写真と交互に見比べていると不思議な気分に陥る。エロスとは何か?裸だけから感じるものではないし、陰部の見えた裸の写真に嫌悪感を抱く人もいる。人それぞれの感性とは本当におもしろく、自由である。コレクション全体のテーマが「生と死」であり、そこから派生する「エロス=性」は人間にとって非常に大切な「生」なのではないだろうか?

ジェームス・リー・バイヤーズの作品と中国明王朝時代のダイニングテーブル
荒木経惟の作品「 Mythology, 2001/2015」と文人の木製長椅子、清王朝17世紀 

個人的にお気に入りの1作品。7枚のスクリーンは一見上質な和紙に描かれた山の絵に見えるが、実は大理石で出来ている。文人もすごいが、こういった家具を作った当時の職人の技術に感動する。


同ミュージアムでは、新たに「Insense Room」と呼ばれる香道の部屋が誕生。純金で出来た容器に3 種の異なる香木を用意し、コンゴウインコが自然に落とした羽で製作された扇で香木から漂う香りを掴み、客人にもてなすという究極の儀式。創設者のデジレ・フォイエルレ氏が伝統を重んじながらも独自の解釈のもとコンテンポラリーパフォーマンスとして作り上げており、全ての監修・製作を手掛けている。(*こちらは別途予約が必要) 

これまで、古代アジアや中国の歴史に興味を持ったことはなかった。アート性の高い写真やコンテンポラリーアート、ストリートアートが好きだったからである。それらであっても大した知識は持っていないし、ただ単純に好きとか美しいとかカッコイイと思うだけでそれ以上深く知ることもなかった。人生そのものが”感覚”で生きてるせいなのだと思う。

「フォイエルレ・コレクション」においては、ただ、何度でも見て感じて「生と死」の世界について、自分の中で何かの答えを見つけたいのかもしれない。また時間を置いて見に行こうと思う。

取材に協力頂いたディレクターアシスタントの志乃さん(右)とディレクターのダニエレさん(左)

*希望者には、英語、日本語による作品や館内のガイドを依頼することが可能となっており、個人的にもオススメします。

*入館には事前にHPからの予約が必要となります。

『The Feuerle Collection』

Hallesches Ufer 70, 10963 Berlin Germany

オフィシャルHP:http://www.thefeuerlecollection.org/

Photo : def image、Nic Tenwiggenhorn 

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長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。

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