「Red Bull Music Academy」が帰ってきた(宮沢香奈)

2018/10/18 15:00 更新


9月8日から10月12日に渡り、ベルリンにて『Red Bull Music Academy 2018(以下、RBMA 2018)』が開催された。RBMAとは世界各地で活動している若き才能あるアーティストを発掘し、支援する音楽学校のことで、毎年世界の主要都市を拠点に約1ヶ月の間レクチャーやスタジオセッション、カンファレンスなどが行われている。一般的にはその関連で行われる豪華なクラブイベントの方が認知されているかもしれないが、本来RBMAとはアーティストが世界に羽ばたくための登竜門のような存在なのだ。

※前回のレポートはこちら

そのRBMAが今年記念すべき20周年を迎え、初回開催地であるベルリンへと戻ってきた。原点回帰とも言える今回は、体力と時間があれば毎日でも参加したいほど贅沢なプログラムがぎっしり。どんなことが行われていたかは是非ともオフィシャルサイトからチェックしてもらいたいが、RBMAのすごいところはプログラムだけではない。まず第一に、世界最大規模を誇る複合スタジオ施設"FUNKHAUS"をメイン会場に選んだ点である。同施設がどれほどすごいかはこちらでたっぷり説明しているので是非ご覧頂きたい。

FUNKHAUSではこれまでにも音楽だけに限らず、ファッション、IT系などの大きなイベントが開催されてきており、ベルリナーにとっては特に真新しい場所ではない。しかも、冷戦時代に建てられた旧東ドイツのラジオ局であり、時代を象徴する建築物として保護されている有名な場所でもある。しかし、3年前にオーナーが替わり、世界的アーティストの公演会場として定着し始めたのはごく最近のことである。そこへ目を付けたのがRBMAであり、20周年と共にその存在を世界へと知らしめたのだ。

FUNKHAUS自体の取材へ行った際にまさにRBMA真っ最中だったのだが、驚いたのは最も有名なレコーディングスタジオが入居するブロックBの中にスタイリッシュな特設エリアを作り上げていたことである。特設ステージ、専用のケータリング、ラウンジ、オフィスなどが設置され、ベルリンのコンテンポラリーアートギャラリーとして有名なKonig GalerieのオーナーであるJohann Konigがキュレーションしたアート展示やNew Tendencyのアイコニックな家具によってモダンな空間となっていた。”オシャレ過ぎる!”と嫉妬にも近い感覚で思わずため息が出たが、開催都市の最先端にあるものをサラッと見つけてきては発信してしまうことにもため息が出た。

さらに、関連イベントの一つとして開催されていたテクノイベント『S3kt0r UFO- 30 Jahre Techno』にも参加させてもらったのだが、ワンナイトイベントでありながらフェスのような気分を味わせてもらった。正式なパーティーレポートはすでにこちらで紹介しているが、個人コラムとしては”裏側”を是非ともお伝えしたい。

『S3kt0r UFO- 30 Jahre Techno』at Shedhalle
『S3kt0r UFO- 30 Jahre Techno』at Shedhalle

一緒に仕事をしている友人の計らいで、ベルリンを活動拠点とするカナダ人テクノアーティストMathew Jonsonのゲストとして遊びに行かせてもらった同イベントは、ベルリンにテクノシーンが誕生してから30年を祝うといったコンセプトのもと開催された。90年代からベルリンで活躍しているキャリアアーティストから旬なアーティストまでテクノのドリームチームが集結した豪華ラインナップも見事だったが、バックステージで見たスタッフの動きに感心したのだ。

コンクリートスケルトンのユニークな形の巨大ビルが会場となっており、その裏側

VIPルームにはレッドブルの最新商品がズラリと並んだバーが設置され、ビールや他のアルコールと共に飲み放題になっていた。ここまでは他のフェスやパーティーでもよく見かける光景だが、スタッフにリクエストを出しても嫌な顔一つせず常にフレンドリーに対応してくれる上に、アーティストの輪に入って一緒に楽しむ姿がとても印象的だった。ピリピリしてしまいがちなバックステージも同様で、真剣なのはもちろんだが、どこか余裕がある。お酒を飲んだり、踊ったりしながら、それでいてきちんとプロフェッショナルな動きが出来ているのだから素晴らしい。

Mathew Jonson
Mathew Jonson

絶大な人気を誇るNina Kravizのステージにはシャンパンクーラーに入ったシャンパンが用意されており、トリを務めたPanorama BarのレジデントでもあるLakutiには若い男性アシスタントが付いており、プレイ中にタバコに火をつけて持って行く懸命な姿にも驚いた。圧倒的に男性アーティストが多い世界で、堂々たる実力と存在感を放ちながら活躍している女性アーティストに改めてリスペクトした。

久しぶりに大きなイベントの裏側を見させてもらい、踊りに行くだけではない現場の楽しさを実感することが出来た。日本で経験させてもらった数々のベント現場のことを思い出しながら、世界の最前線にあるベルリンのシーンの裏側をもっと知りたいと思った。

90年代当時のベルリンテクノシーンを物語るポスター

Photo by : Red Bull content pool、Takafumi Tsukamoto、Yuka Sagai

Thanks : Mathew Jonson、Katsuhiko Sagai


宮沢香奈 セレクトショップのプレス、ブランドのディレクションなどの経験を経て、04年よりインディペンデントなPR事業をスタートさせる。 国内外のブランドプレスとクラブイベントや大型フェス、レーベルなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。 また、フリーライターとして、ファッションや音楽、アートなどカルチャーをメインとした執筆活動を行っている。 カルチャーwebマガジンQeticにて連載コラムを執筆するほか、取材や撮影時のインタビュアー、コーディネーターも担う。 近年では、ベルリンのローカル情報やアムステルダム最大級のダンスミュージックフェスADE2013の現地取材を行うなど、海外へと活動の場を広げている。12年に初めて行ったベルリンに運命的なものを感じ、14 年6月より移住。



この記事に関連する記事