【記者の目】アパレルの受注生産を考える 欠かせない独自の魅力、社会問題解決の視点で

2022/03/14 06:28 更新


長年アパレルビジネスの柱となっている展示会

 アパレルメーカーによる専門店などへの卸売りは、長年続くオールドエコノミーの典型だ。インフルエンサーも関わることが多いDtoC(メーカー直販)ブランドは、ニューエコノミーの代表例と言われる。全く異なるビジネス形態ながら共通するのは予約販売、受注生産が大きな柱になっていること。大量生産や廃棄が指摘される中、サステイナブル(持続可能)な手法として注目される受注生産について考えてみよう。

展示会のメリット

 アパレルメーカーの卸ビジネス形態は大きく分けて、①展示会による受注②期中フォロー③在庫(現物)ストックによる販売④①~③のミックス、がある。展示会で早いところでは1カ月後、長いところでは半年後に納品する。この受注形式は何十年と続いてきた。80年代後半からのSPA(製造小売業)台頭により、卸市場は小さくなり、昨今はECの拡大やコロナ禍でさらに厳しさが増している。それでも、展示会は卸ビジネスの柱であることは変わらない。それには、一定のメリットがあるからだ。

 展示会の最大の良さは基本的に受注生産のため、無駄なものを作らずに済み、在庫ロスが出ない(サンプルは残るが)こと。もちろん展示会だけで受注は取りにくいという現実はある。理論的には展示会受注だけなら在庫は生まない。もう一つの良さは、納品まで数カ月あることから、じっくり素材を選び、加工にもこだわり、オリジナリティーのあるものが作りやすいということ。また、以前のようにファッショントレンドに左右されることも少なくなった。その分、独自性のある物作りはしやすい市場環境にもなっている。

 シンプルに考えれば、展示会ビジネスはサステイナブルであり、効率的でオリジナリティーを出しやすい。展示会を開いてもなかなか集客できない、納期短縮の要望の強まりといった状況はある。それでもきちんとしたものを作るという点から、展示会は見直されてしかるべきではなかろうか。

独自性の高い商品

 一方、DtoCブランドは個人、新興企業、工場などが取り組むことが多く、在庫リスクを避けなければならないことが多い。ネット販売を前提としているから、予約販売やクラウドファンディングでの応援販売による受注生産が販売の主流だ。ただ、全く無名の状況から売れるまでになるにはハードルは高い。SNSはじめデジタルをフル活用して消費者とつながり、顧客をじわじわ広げていく取り組みが欠かせない。

 現実的には予約販売を募っても採算ラインまでいかないこともままある。また、一定量が揃わなければ生産すること自体が難しく、見込み生産して在庫を持つこともあると聞く。そうなると、在庫を残すリスクが生まれ、サステイナブルではなくなってしまう。

 レディスアパレル・シューズの製造販売、クロシェ(神戸市)は20年、業界の大量生産大量廃棄の悪循環から抜け出すため、24年までに生産量の80%を受注生産にするという目標を掲げた。ホームページにも公開し、顧客にも業界の実情とクロシェの取り組みを理解してもらおうとしてきた。ところが、受注生産はかなり苦戦し、目標のペースには遠く及ばない状況となった。メディアも含めて内外にこの目標を公開したため、黙って取り下げるのではなく、できなかった理由も含めて今後の新たな取り組みを明らかにした。

 できなかった理由は、①通常販売より届けるのに時間がかかり受注数が伸び悩んだ②受注生産比率目標の高すぎた壁に努力の限界を感じた③定番が大半を占めたり、1回当たりの生産量が少ないブランドもあり、廃棄することはそもそも少なかった、としている。22年以降も同社は「作りすぎない生産体制」「息の長い定番商品の強化」を続ける。

 昨年までの取り組みで成功したものもある。レディスシューズ「ファルファーレ」は毎月受注生産での商品を企画し続け、浸透してきた。売れ筋をつかむテストマーケティングとしても効果的と見ている。特に三井化学の形状記憶素材「ヒューモフィット」をアッパーに使ったパンプスは独自性の高い商品として好評だった。

 受注生産を軌道に乗せるには、ブランディング、独自性あふれる商品企画が欠かせないということだ。廃棄につながりやすい大量生産という社会問題を解決するうえでも今一度考える必要がある。

古川富雄=大阪編集部レディスアパレル、服飾雑貨担当

(繊研新聞本紙22年1月31日付)

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