インナー・レッグウェア業界のオムニチャネル戦略が一気に進み始めた。ワコールホールディングス(HD)が次期3カ年計画での本格化に向けた準備を進めているのをはじめ、多くの企業が独自戦略を具体化中だ。オンライン、オフラインにこだわらず消費者が自由に買い物をするなか、まさに企業の最優先課題になってきた。
(山田太志西日本編集部インナー・レッグウェア担当)
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膨大なエネルギー費やし
ワコールHDが挙げる課題と対策は、インナー、レッグに限らず、アパレル関連企業にほぼ共通する課題だろう。具体的な対応策として①パーソナイズドアプリ②3Dボディースキャナー③AI活用④顧客カルテの電子化や接客タブレット⑤次世代型ショップなどを進める。国内事業の再構築が優先だが、次のステップでは新たなビジネスモデルを海外にも応用すると見られている。
いずれも単独で解決できる問題ではない。「接客」を強化するには、新しい店作りのほか、タブレットなどで顧客の購買履歴や商品の「情報」を瞬時に得ることが不可欠。消費者が店頭に無い商品を求めるなら、ECを含めた「在庫」の一元化が必要だし、物流基盤の整備や在庫に関わる「流通」との話し合いも重要。同社はシステムなどへの直接投資はもちろん、数字に現われない膨大な人的エネルギーを投じている。
タビオは店頭で検索可能なタッチパネル型端末「タビオサーチ」や「タビオアプリ」の活用、店頭取り寄せサービスの拡大、EC対応の物流システム整備などを既に具体化。今後は、受け渡し場所にもなる小型店などの検討、来春のウェブサイト刷新なども準備中だ。
チュチュアンナは、今年から直営約100店に「店頭可視化システム」を導入した。3Dカメラなどの解析に基づき、入店数や入店率、買い上げ点数、滞在時間などを科学的に分析して、「見える化」を進めていく。将来はアプリ、可視化システム、店頭情報を連携させ、〝個客データ〟の蓄積やサービス向上を狙う。同社も来春に自社サイトを大幅リニューアルする計画だ。
店舗展開の早かった企業だけではない。リアル店舗の厳しさが増し、逆に直営店舗を持たなかったことで戦略の選択肢が広がるという面もある。グンゼは直販ビジネスを成長の大きな柱の一つに掲げ、昨年秋にデジタルマーケティング室を新設した。まだ店舗数は少ないが、新たな出店場所を模索しながら、ECの強化や店舗運営モデルの確立を急ぐ。
アツギは昨年秋に初の直営店を設け、福助も店やイベント、ウェブ・SNSを多面的に活用した消費者接点の強化を重点施策に挙げている。個性派バッグなどのECで実績のあるナイガイは、より消費者に近づくビジネスの構築を課題とする。
自社の強みをどう生かす
アプリやECの様々なソフト、物流や店頭支援のシステム、自動化・省力化などの進歩は日進月歩である。新しいツールに目を光らせながら、それ以上に自社の現状や強みに合わせた独自のオムニ戦略を立案し、そこに先端技術を活用していくことがカギだ。
ワコールHDは、3Dボディースキャナーを3年で100店に導入する。2700の店舗、3400人のビューティーアドバイザーという店頭販売の強みと、長年のサイズに関する技術蓄積を組み合わせた戦略は、確かに同業他社がまねのできないものだ。店頭サービスの強化、新規顧客の開拓だけでなく、データをもとにした新商品の開発を進め、将来的には知見を生かしたサイズビジネスなどへ広がる可能性もある。
タビオは、直販中心で運命共同体に近い生産チームを持つのが何よりの強み。既に個店での実験を行っているが、これからRFID(ICタグ)の活用が普及していけば、まさに生産現場から消費者までの情報把握が可能。一気通貫型のビジネスモデルがさらに強みを発揮しそうだ。
オムニチャネル戦略は、企画、マーケティング、生産、営業、物流、店頭、物流、総務、財務に至るまで、企業の全組織を巻き込まないと進まない。ビジネスの形が変わるだけでなく、企業風土全体の変革につながっていく。真の総合力が試されると同時に改革の大きなチャンスでもある。
(繊研新聞本紙9月3日付)